ムスリム同胞団の本部がロンドンからグラーツなどに移動した……というニュースが流れてきた。英国のデイリー・メール紙が4月13日付で報じた。グラーツ市(Graz)はオーストリア南部の第2の都市で人口約25万人だ。
ムスリム同胞団のグラーツ市拠点説は決して新しいニュースではない。当方は「アルカイダは本当に弱体したか」(2009年9月15日)というコラムで「ムスリム同胞団はジュネーブ、アーヘン、ミュンヘン、そして現在、ロンドン、ブリュッセル、グラーツなどで活発な活動をしている。警戒を要する」と書いたことがある。そのグラーツ市がムスリム同胞団の主要拠点となったというのだ。
そこで当方にグラーツ拠点説を教えてくれたイスラムテロ問題専門家、アミール・ベアティ氏に電話で今回の英メディアの報道について聞いてみた。
「グラーツ市にはムスリム同胞団の事務所はある。ただし、それが即、ムスリム同胞団の本部とは断言できない。ムスリム同胞団はエジプトから始まったイスラム教根本主義グループだ。アルカイダの創始者ウサマ・ビンラディンやアイマン・ザワヒリ、ナイジェリアの『ボコ・ハラム』、ソマリアのアル・シャハブ、ヒズボラ、そしてハマスまで現在のイスラム過激派組織の母体だ。本部はエジプトだが、彼らは公の事務所と秘密拠点の2か所所を持っている。グラーツ市の場合、ムスリム同胞団の東欧責任者が潜伏しているから、重要拠点であることは間違いない」という(「イスラム世界の『クトゥブ主義』」2013年7月14日参照)。
メディア関係者の問い合わせに対して、オーストリア連邦憲法保護・テロ対策局(BVT)関係者はグラーツ市拠点説について肯定も否定もしていない。ベアティ氏は「当然だ。事務所の存在は掴んでいるが、詳細な点が不明だからだ」と説明する。ちなみに、オーストリアに約1300人の同胞団メンバーがいると推測されている。
最近、15歳と16歳の2人のイスラム教徒のギムナジウムの少女が突然、シリアに行き、反体制派活動に関わっているという情報が流れ、ウィーンの学校関係者ばかりかオーストリア社会全般に大きなショックを投じたばかりだ。「どうして若い女性が突然、シリア反体制派過激派活動家になったのか」という問題だ(「ホームグロウン・テロリストの脅威」2013年9月12日参照)。
ベアティ氏は「ムスリム同胞団らイスラム過激派は欧州のイスラム教徒(ユーロ・イスラム、欧州で約1400万人)をオルグし、危険な地域に戦士として送っている。欧州社会はムスリム同胞団が危険なテロ組織であることを認識すべきだ」と指摘、ムスリム同胞団の非合法化を要求している。ムスリム同胞団の発祥の地エジプトでは昨年12月、テロ組織に指定されている。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。