「グローバル・エリート」という言葉が日本を徘徊している、気がする。
少子高齢化とともに衰退していく日本全体に立ち込める不安感と、メディア・出版社の商業主義が合間って、「グローバル・エリート」な生き方ができなければ将来は危ういという煽りが、そもそも「グローバル・エリート」とは何かという本質的な議論が抜けたままに出回っているのだ。
元経産省官僚のうさみのりや氏は、これを「グローバルマッチョ思想」として批判していた。曰く、「『受験戦争にはグローバルマッチョ競争という続きがあるよ』と言って人間をスペック競争の型におしこめるような発想で、人間の多様性というものを暗に否定している」とのこと。
これはこれで一理ある批判なわけだが、この「グローバルマッチョ」につながる問いとは何かを考えたとき、それはタイトルにも記したように、世界のツワモノたちに比べて「あなたは天才ですか?」ということになるのだろう。
これと関連して、ハーバードMBA、グーグル本社と一般的に「グローバル・エリート」と思われているコースを進み、シリコンバレーで起業した石角友愛さんが新著『ジーニアス可能性を見つけよう』のなかでおもしろいことを書いていた。
「Are you a genius?」と訊ねるのではなく、「What is your genius?」と訊ねてください。
「genius」はふつう「天才」と訳されるが、ラテン語では「その人の持っている本質」「天性から備わっている才能」「誰もが生まれつき持っている秘めたる力」という意味があるという。
したがって、「あなたはジーニアスか?」と問うよりも、「あなたのジーニアスは何か?」と問うことこそが本質的な問いなのだ。
この発想はすごく合点がいく。うさみ氏の言う「グローバル・ピラミッド」の頂点を目指すマッチョ競争をしていても、その頂点に立てるような人はごくわずかにすぎないし、そもそもそんな生き方で幸せになるかは定かでない。他人との競争のなかで「グローバル天才」を目指すのではなく、自分自身の内から湧き出るジーニアスを見い出し、その道を生きることこそ、多様化する世界のなかで目指すべきグローバル・エリートの道なのではないか。
さらに、同著のなかでおもしろい発想が紹介されている。
「Vulnerableになりなさい」というTwitter創業者ジャック・ドーシーの言葉だ。
Vulnerableは一般的に「弱い」や「傷つきやすい」と訳される。しかし、そうではなく、Vulnerableとは未知なる世界や外敵に対して「つねに自分をさらした状態にする」ということであり、「リスクに自分をさらすのを恐れない態度をとること」という意味合いで使っており、人々に自分の失敗や怖れを見せなさいと語っている。
この発想はいい意味で価値観を反転させてくれる。私たちは普通リスクを回避し、「傷つく」ことを避けようとする。また、貧困層や障害者などを社会的弱者=Vulnerableとして捉える傾向がある。しかし、そのVulnerableであるということは実はイノベーションが生まれ得る状態にあるということでもあるのではないだろうか。
グローバル・エリートといったときも、弱みの全くない完璧な「マッチョ」な姿を誇示する人ではなく、自らの「ジーニアス」を発揮するために、リスクを厭わずに自分の本質をより多くの多様な人々にさらけ出すことができる人なのではないかと思う。そして、留学することや、起業することも、終わりなき「スペック競争」や「マッチョ競争」なのではなく、リスクを恐れずに自らをさらけ出すことなのではないか。
ということで、ここから宣伝になりますが、自らのジーニアスを磨き、Vulnerableであろうという方に、「日本財団国際フェローシッブ」という奨学金プログラムを通して海外研究/留学の機会を提供している。公益に資する分野で高い専門性を持つミッドキャリアの実務家、研究者を対象に、現在フェローを大募集中なので、我こそはという方はぜひご応募いただきたい。
http://intl-fellow.jp/
Find your genius and be vulnerable.
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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。