AIは核廃絶を実現できるか?

松本 徹三

北朝鮮のミサイル実験を受け、制裁拡大を全会一致で採択した国連安保理(国連安保理サイトより:編集部)

国連総会における核廃絶決議には意味があったのか?

この決議に際しては、「画期的なことだ」と涙ぐみ、声を詰まらせる人たちがいた一方で、「肝心の核保有国が一国も参加していない決議など、何の効果ももたらし得ず、従って何の意味もない」と冷ややかに斬って捨てる人たちもいました。

このことに関連しては、私は、「これだけ多くの国が核廃絶を求めた」という事実が記録に残るのは、それなりに意味があることだとは考えますが、これだけでは、核廃絶に「一歩」どころか「百分の一歩」も踏み出したことにはならないとも考えます。

核保有国といえども、自国の安全と利益(以後これを一括りにして「国益」と呼びます)を守るために「現時点ではどうしても必要だ」と考えているからこそ、自らの核の保有を絶対に放棄しないのであり、全世界が「いっせいのせ」で「核を含む全ての武力」を完全に放棄するのであれば、自らもそうするでしょう。(偶発事故のリスクが減るだけでも、これは大きなメリットだからです。)

従って、今後の全ての努力は、「どうすればそういう(いっせいのせの)状況を現実にもたらし得るか」という唯一点に絞って行われるべきです。(それ以外のものは、全て無意味な自己満足にすぎないと考えるべきです。)従って、上記の国連決議に参加した人たちは、直ちにそのための具体的な方策を考え始めているのでなければ、不誠実(言いっ放し)と言われても仕方がないでしょう。

国家がなくならなければ、武力保有の競争は無くならない

第二次大戦直後、原子爆弾がもたらした惨禍を目の当たりにした湯川秀樹博士などの人達は、「世界連邦の設立」を目指して声をあげましたが、多くの人達から「非現実的」と嘲笑されました。しかし、私はこの考えは、問題の本質を正しく突いていたと思います。「国家」が存在する限り「国益」が存在し、国民の為にそれを守らねばならない使命を帯びた政治家は、取り敢えずは「強い武力の保持」を志向するしかないからです。(日本の護憲論者の様な夢想家は、世界では稀な存在でしょう。)

私は、今回の著作「AIが神になる日」の中でも、「人間は、それぞれが生まれついて持っている『理性を超えたエゴ』の為に、自らが作り出した核などの危険な技術を制御できなくなり、遠からず自らを破滅させるだろう」と予言しており、「これを防ぎ得るのは、自らが創り出すことのできるAIだけだ」と主張しています。それは、「AIだけが、現在の国家システムを世界連邦へと脱皮させることができる」と考えるが故です。

その手順は、まず、世界中の主要国が「自国の政治をAIに委ねる」ことから始まります。そうなると、AIが主導するする主要国のG7やG20は、現在よりはるかに理性的な協議を行うことができる様になり、やがてはこれが国連の改組をもたらし、より大きな強制力を手中にした「AIが主導する国連」が、残りの国を説得して、ついに「AIが主導する世界連邦」を作り上げるというものです。

こんな話を「夢物語」と嘲笑するのは容易です。しかし、それでは考えてみてください。今からわずか二百数十年前の産業革命以前の欧州に生きていた人達は、現在のような世界をいささかでも想像し得たでしょうか? アヘン戦争終結後の清朝末期の中国に生きていた人達が、現在の北京や上海を想像し得たでしょうか?

「シンギュラリティー」の威力は産業革命とは比較にならないでしょうし、その時代になれば「発展の加速性」はタンジェント・カーブの様なものになるでしょうから、これから五十年ないし百年以内に起こることは、過去の数百年に起こった変化をはるかに上回るものになるでしょう。

ですから、現時点で五十年後、百年後の世界を何も想像できない人が多いのは、全く異とするにはあたらないのですが、個人も国も、そういう状況の中で惰眠を貪っていると、時代の波から完全に取り残される事になってしまうでしょう。

先ずは「核不拡散」で時間を稼ぐしかない

最近、日本でも核保有論者が多くなりましたが、私はあくまで反対です。もし自らが核を保有すれば、もはや「核不拡散」を主張することはできなくなり、核が世界中に拡散すれば、それが異常者の集団の手に渡ったり、偶発事故を引き起こしたりするリスクが増大します。

キューバ危機の際に、もし米ソの指導者(特にソ連のフルシチョフ書記長)が判断を誤れば、米ソ間の核戦争が人類を破滅の瀬戸際まで追い込むことはあり得ました。今後ともそういうリスクはないとは言えないし、それ以上に、狂信者や何かにキレた若者が人混みの中に銃を乱射する様に、どこかで核が使われ、それが世界戦争の引き金にならないとも言えません。現実に、北朝鮮の最高指導者が何かにキレれば、極東の、そして世界の情勢はどうなるのでしょうか?一瞬先は闇です。

現在の世界の核保有状態は甚だしく公平を欠き、永久にこのままで良いとは誰も思っていません。しかし、今はこれを維持する以外に方法がありません。AIが、何とかギリギリのタイミングでシンギュラリティーに到達し、その力によって遂に世界連邦が設立され、それに伴って、世界中の軍備の縮小と核廃絶が実現されるまでは、じっと我慢して、リスクを最小限に抑え込んでおくしかないのです。

ドイツを始めとする欧州の幾つかの国と、日本や韓国は、現時点で「米国の核の傘の下に入る」という選択をしています。(ちなみに、これらの国々は、こういう形で準核保有国ともいうべき地位を得ているのですから、国連の核廃絶決議に参加できなかったのも仕方のないことです。)しかし、これに対し、北朝鮮は、「中国またはロシアの核の傘の下に入る」という選択肢があるにもかかわらず、自国民を飢えさせてでも、あくまでも自らが「核大国」になろうとしているのです。

このように考えると、現在の北朝鮮にどう対処するかという問題は、人類の破滅にもつながりかねない世界の将来に、大きな影響を与える重大問題であると考えざるを得ません。

今、この時点で、世界を構成する重要な一員としての我々日本人がやるべきことは何でしょうか? 第一は、何とかして北朝鮮の野望を挫き、核不拡散を貫き通すことであり、そして、第二は、日本人の優れた頭脳を動員して、偶発核戦争が起こる前に、AIをシンギュラリティーへと高めることです。これは、抽象的な綺麗事の課題ではなく、現実的で具体的な課題です。

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