DAO(自律分散組織)とはなにか?

大石 哲之

ビットコインを中心とする技術のコア概念に、「Distributed Autonomous Organization (自律分散組織)」というのがある。略してDAOだ。

この概念はわかりにくいと思うのだが、一言とで言うと、以下の図になる。

dao

中心になにがいて、外側に誰が居るか?

旧来の組織というか、ごく普通の世の中のほとんどの組織は、中央に管理者がいる。そして、それは人間である。大統領であり、CEOであり、マネージャーであり、官僚だ。そして、その周りに人間が存在している。人間が、人間を管理する。

Human center, Human edge.

国をはじめ、行政機関、会社、NPO、すべてこの方式だ。中央集権の組織である。

私見だが、人類のほぼすべての災いは、中央集権組織において、その管理者たる人が信頼出来なかったことに起因する。普通の考えでは、出来る限り信頼できそうな人物を管理者にするという解決を試みるが、これに継続的に、ずっと成功するわけではない。

これに対して、DAOは、中心に契約を置く。プロトコルといってもよい。そして、その契約のまわりに、人間が存在する。

Automation center, Human edge.

金融市場、株式市場、グローバルな経済、インターネットのネットワーク部分(ネットの会社は旧来組織である)、ビットコインのシステムなどがそれに当たる。

ビットコインの場合、中心にあるのは、ビットコインプロトコルであり、採掘の方法や、コインの生成量、どういう取引を認め、どういう取引を不正として排除するか、そういった一連の手続き(プロトコル)が存在する。それはネットワークとマイナーにより自律分散的に実行され、何人も不正することは出来ないし、乗っ取ることも、改ざんすることも事実上不可能だ。それがコアの中心にあり、その周りで人間が活動する。

これは突飛な考えかもしれないが、そうでもない、現実に、我々の世界は、どういうわけか決まっている自然法則があり、何人も犯せないその方式の周りで人間が暮らしている。市場の法則や、経済法則も恐らくそうで、それは誰も変更できない自然法則である。

神を中心にして、その神がつくった自然法則のまわりの人間が取り囲む。西洋の考え方の根本にあるものは、もともとDAOかもしれない。

■DAOマトリクス

dao2

これを整理したのが上記の図だ。(出所:DAOs, DACs, DAs and More: An Incomplete Terminology Guide 内の図を筆者翻訳)

組織の中心に何をおくか、組織の周りに何をおくかでマトリクスを作る。

①人間が中心・管理者、 まわりを人間が取り囲む → いままでの組織

②契約や自動化が中心・管理者、 まわりを人間が取り囲む → 自律分散組織(DAO)

③人間が中心・管理者、 まわりを機械が取り囲む → オートメーション、ロボット、自動化ライン

④契約や自動化が中心・管理者、 まわりを機械が取り囲む → AI

簡単にいうと、①を賢いひとにより導かれてうまくやろうというのが従来の考え方、③がグーグルの方向性、④はまだない。ビットコインやインターネットは②。

■DAOは、国家や、組織の形を大きくかえる。

国家の中心にあるのは、近代の概念であれば法であろう。法の支配による統治。大統領でもなく、官僚でもなく、法律による統治が中心にあり、人間はその下に配置される。しかし、同時に中央集権であるため、その法律が履行されなかったり、その法律も、好きなように権力すきなように変えてしまっている。

ビットコインでは、ビットコインの法律(プロトコル)を変えられる権力は存在せず、もし変更するとしたら、ネットワーク参加者の過半数以上が、自主的に変更を受け入れるしか無い。だれもそれを強制できず、行うことができるのは、変えてもらうように「勧告」するだけだ。

従来このような自律分散の仕組みは、インターネットのネットワーク部分が代表的な例であったが、あくまでコンピュータ同士の話であった。しかし、ビットコイン(お金)、Ethereum(契約)などの基盤が整うことで、現実の社会活動や契約活動、経済活動において、このような脱中心化ができる可能性が生まれたといえる。

大石哲之
日本デジタルマネー協会理事
日本Ethereum協会理事