音楽産業の国際展開に関するタスクフォース。知財本部のもとで3月から4回にわたり開催されました。音楽に焦点を当てて政策を検討した(おそらく)初めての取組です。コンテンツの海外展開を進めることが重要課題とされる中で、音楽業界をモデルケースとして集中討議したものです。
議長は日本レコード協会の副会長でもあるキングレコードの重村社長。委員として、日本音楽制作者連盟 大石理事長、音楽産業・文化振興財団 後藤理事長、日本音楽事業者協会 堀会長、日本音楽出版社協会 谷口社長、コンサートプロモーターズ協会 中西会長、テイチクエンタテインメント 石橋社長、龍村弁護士、そしてぼく。
オブザーバーに総務省、外務省、文科省、経産省、観光庁、クールジャパン機構、国際交流基金、CODA、JASRAC、JETRO、BEAJ、電通、博報堂。
このかたがたが内閣官房の同じテーブルに着く。それだけで、ただごとではない。迫力ありすぎで。
でも、なぜいま音楽?
海外展開の潜在性が高くて、業界の取組も熟しつつあることから、音楽をモデルにするというのが政府の説明です。特定業種を支援する「ターゲティングポリシー」にはぼくも批判的です。だから電子書籍の面倒を見る総務・経産・文科のいわゆる三省懇は、ぼくは参加をしていたものの、政策の位置づけが難しいと感じながら推移しました。
その点、音楽はモデルになると考えます。文字や映像よりも早期にデジタル化への対応を余儀なくされ、グローバル化も早かった。このため、産業構造も大きく変化してきている。だが市場規模はアメリカに並ぶ世界ツートップの大きさを維持し、いよいよ海外展開が業界の自主テーマとなってきた。政府を頼らずとも、自らデジタルとグローバルに取り組もうとしています。
これをモデルとして海外展開の成果を上げ、他のコンテンツ分野への波及を図る。特定分野のトライアルが一般化できる可能性があるのです。それを政府がバックアップするのは妥当でしょう。
それでも気をつけるべきなのは、知財本部の会議の席上、松竹の迫本社長が指摘したように、ビジネス支援ではなく基盤整備であるべき、という点です。おかみを頼る産業への支援は、競争力のない産業の温存と資源配分の非効率をもたらします。成長戦略と、衰退産業や伝統文化の保護とをごっちゃにしてはいけません。国が打つべき手を厳選することが大切です。
その上でとりまとめられた施策には、海外拠点の構築、データベースの整備、海外市場の調査、権利保護の強化、人材育成など数多くの項目があります。これらタスクフォースの検討結果に優先順位をつけ、政策の実行計画を作るのが知財本部の役割なのですが、これを受ける政府側の意図は最終ページ「おわりに」にぼんやり浮かび上がっているとぼくは読み取りました。
そこには2点の項目が取り上げられています。
「現地での販売・情報発信・流通の拠点整備は、コンテンツ産業というファンとの継続的なコミュニケーションが支持獲得の基盤となる特殊な産業構造の上では不可欠な取組であり、同様の取組は映画やテレビ放送についても言える」
まずは拠点整備に力を入れる。現地の放送局やプロモーターとの関係を密にして、現地のネットワークを構築するということです。
もう1点はデータベース。「Google、Amazon、Apple等のグローバル・プラットフォームへの対抗に関しては、単に日本独自のプラットフォームを構築するのではなく、日本のコンテンツ業界が有する情報データベースを業界統一的に整備し、これらプラットフォームとの関係では、データベース保有・提供の権利を以て対抗する方策が有効」
過激なことが書いてあります。が、要するに施策としては音楽業界横断のデータベースを作る、ということです。これについてはさらに具体的な記述があります。
「既に我が国においても、Sync Music等の海外向けデータ提供の取組は行われているものの、現地ファン層に「旬」の情報を提供するためには、コンサート開催やテレビ放映、新譜発売等の情報を付加して提供していく必要がある。今般のタスクフォースにおいて、日本音楽制作者連盟より提案されたデータベースの構想を基礎として、業界間での情報提供のシステム構築につき議論を深め、早期に実現を図ることが望まれる。」
この「Sync Music」は音楽業界の依頼により、ぼくの研究室が運営・管理しており、2000の音楽アーティスト情報を扱っています。これをベースとしつつ、新たなデータベース構想が動き出そうとしており、そうした次世代のインフラを政府も後押ししようというものです。
アウトバウンドとしての海外拠点整備と、国内インフラとしてのデータベース整備。こうした柱を推し進める施策が2020年の五輪に向けて成果を上げることを期待します。
前回の五輪のシンボル、国立競技場がフィナーレを迎えます。その最終週に日本の音楽の力を集結させよう。そして、これを皮切りに、世界に向かって発信策を展開していこう。
そのためのイベント「JAPAN NIGHT」が2014年5月28~29日に開催されます。集合しましょう!
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。