投機=短期的な価格変動の目論見から、利ざやを得ようとする行為(Wiki)、偶然の利益をねらって行う行為(Weblio)、「投機」は短期間で売買益を得ることのみを目的とする点が「投資」と異なる(株式用語辞典)などなど。
日本の株式市場でもっぱら個人投資家が行っているのはこの投機が多いとされています。勿論、長期間株式を所有している人もいますが、それは株価が下がって塩漬けになっているケースも多く、大きく利益が乗っているにもかかわらず、その配当や安定成長性、ひいては株価の上昇を期待し、じっと持っている人は少ないと思います。
このところ、一部メディアでちょくちょく取り上げられているのが長期的視野に立った投資というトーンの記事でしょうか? 今さら、とも思うのですが、証券会社にとってあまり好ましくないこの話題に私も注目しています。
日本のマーケットはなぜ、短期的視野に立った投資が多いのかといえば証券会社が作り上げたシステムにその要因を見出すことができます。つまり、日本版金融ビックバンにより株式売買手数料が自由化された上にITの普及でそれまでの取引手数料の価格体系が完全に崩壊したことによります。
80年代、株式の売買は黒電話から証券会社に「○○株を○千株、売ってください」という電話をし、その日の場引け後に「売れました」と連絡を貰うという実にアナログな取引をしていました。取引手数料も確か100万円越えで1万円はしていたと記憶しています。場中の価格変動や板の状態も一般的には見ることができず、結果として売買のハードルは高く、比較的長く持つ取引となったのです。
ところが、証券取引手数料は10分の1以下に下がり、ITの技術の発達でパソコンの画面でリアルタイムの株価ボードと様々な分析が瞬時にできるようになり、デイトレーダーが世の中で跋扈することになります。某証券会社はデイトレの手数料を無料にするなどまさに「回転売買」を利かせることを主眼とし、本当の投資家を育ててきたとは言えない状態を作り上げました。
日本が低金利になり、利息が雀の涙ほどになって久しいわけですが、多くの日本人は日本の株式には目がいかず、海外の投信や為替にその資金を振り向けました。どうやら日本の株式市場も少子高齢化が進んでいるようです。日経ビジネスによると株式投資をしている年代は50代以上が実に全体の4分の3を占めています。20代はわずか1.1%で私のように13歳から市場との付き合いが始まった人は今やほとんどいないのでしょう。
そんな中、金融庁が野村証券に苦言を呈したとされています。同証券の稼ぎ頭の一つに投信の販売がありますが、以前は新たに設定する投信に顧客の資金を振り替えさせ、その手数料で稼いでいたとされます。が、これが長期投資の芽を摘むとして金融庁の目に留まったのです。結果として野村証券は既存の投信の質の向上に努めた結果、1~3月の決算は10~12月決算に比べ利益が激減し、冴えないものとなりました。が、逆に言えば野村証券は顧客の回転売買をさせることで自社の利益を中心に考え、顧客へのサービスが二の次だったともいえるのです。
長期投資を標榜する人、例えばウォーレンバフェット氏や日本ではさわかみ投信の澤上篤人氏はその先頭に立ち、投資とは何かを説いています。
長期投資に仕向ける方法。いくつもあるかと思います。まずは税制改正でしょうか。バブルの頃、不動産価格が急落したその直接的引き金は国土法改正で、土地ころがしを実質締めだしたことにあります。税の仕組みとはそれぐらい市場にインパクトを与えます。ならば、株式の長期保有者にはキャピタルゲイン課税率を下げる仕組みを施せばよいでしょう。改正国土法は5年を長短の境目としました。株式なら私は1年かな、と思います(但し、この改正は証券会社のコンピューターシステム変更に膨大な手間とコストがかかるはずですが)。
配当利回りだけを考えれば2、3%台の銘柄はゴロゴロしていますが、それでも定期預金する日本人が多いのは保守的な人が多く、1円でも損したくないという発想があるからです。カナダでは元本保証で投信の1~5年物の利回りが運用結果次第という商品が多く出回っています。日本人の正確にはぴったりで長期投資という観点もサポートできます。
企業の配当の頻度を上げるというのも手です。北米では年4回配当するところは多く、いわゆる定期的な配当収入に喜びを感じる顧客が多い日本では向きのプランかと思います。
アイディアはいくらでもあると思います。結局長期投資をさせるも投機に留まらせるも税制を含む仕組みづくりだと思うのです。いくら思想的に長期投資がよいですよ、と叫んでもそれは遠吠えにしかならない気がします。デイトレーダーの一日0.1%のリターンを年間200日で年利20%にした方がよいという気持ちを変えさせるのは大変だろうと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。