民間産業は利益誘因でなりたつ。歴史的事実として、民間産業は、多くの矛盾や欠陥を抱えながらも、今日まで、問題を克服して、それなりに成長発展してきたのだから、そこに働く利益誘因の強力な力を認めないわけにはいかない。
他方、公的部門の事業は公共性でなりたつから、利益を生まない、あるいは利益を生んではならないことになる。事業の利用料の設定は、利益を残さないように、原価の積み上げによって計算されるほかないわけだ。
利益が残らないのならば、あるいは利益を残してはいけないのならば、即ち、利益を目的としない経営を行うのならば、費用を削減する努力、利用料の増収を図る努力、利用者を増やすためにサービスを改善する努力、そうした経営努力が働く余地はなく、経営努力なきところ、統治なく、統治なきところ、非効率あり、となる。
そこで、公的部門の事業の改革のために、利益誘因の導入が検討される。それが民営化の論理である。しかし、利益誘因による改革には、事業の公共性に反するとの批判があり得る。民営化すれば、当然のこととして、原価に利益率を乗じた水準で利用料を設定することになり、利用料が高くなる可能性があるからだ。
故に、民営化の論理として、利益を加えても、利用料を上げなくてもよい、むしろ逆に下げ得る、あるいは同じ料金でもサービスの質が良くなる等の論拠を示さなくてはならなくなる。それが効率化、あるいは合理化による費用の削減である。
つまり、利益誘因を導入することで、利用料は、一方で、利益分だけ上昇する可能性があり、他方で、経営の効率化による費用の減少分だけ低下する可能性があるのだが、民営化を正当化するためには、後者の効果が前者を上回るのでなければならないということである。
さて、それだけが民営化の要件なら、他の何らかの経済的・非経済的誘因が経営を効率化させて、費用の合理化が図られるのならば、民営化の必要はなくなる。むしろ、民営化とは、民営化以外の方法を徹底的に検討したうえで、最後の方法として選択されるべきものとなるのだ。
こうして、例えば、事業の民営化ではなくて、事業の運営権を民営に移転させる方式(コンセッション)などの多様な方法が現れてくる。これらの手法は、総称して、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)/PFI(プライベート・ファイアンス・イニシャティブ)と呼ばれているものである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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