英国のEU離脱は英国の歴史に残る3番目の悲劇となるであろう

白石 和幸

elconfidencial.comより引用

英国の政治アナリストや専門家の間では英国の近年250年の歴史の中でBrexitが第3番目の悲劇になることを懸念しているという。Brexitの前の二つの悲劇とはアメリカの独立で北米を失ったことと、スエズ危機で英国はフランスと一緒にスエズ運河の利権を失ったことである。

スエズ運河については、エジプトの当時のナセル大統領がスエズ運河を国有化したことに対し、英国の当時首相のイーデンはフランスとイスラエルの協力を得てエジプトを攻撃した。イーデンはソ連はハンガリー動乱を抱えており、米国は大統領選挙戦中ということで、両国からの干渉はないと判断していたようである。処が、米ソは国連を介して英国に制裁に科す可能性のあることを示唆。そして、国連の緊急総会で停戦要求が決議されて、英国はスエズ運河を失うことになった。結局、イーデン首相の読みの甘さがあった。

Brexitもキャメロン前首相は国民投票でBrexit敗北を確実視していた。処が、投票が間近になってBrexitの勝利が濃厚になった時点で、キャメロンはそれを覆すように努めたが、時既に遅しであった。また、彼の跡を継いだメイ首相は、EUとの離脱交渉に臨むにあたって保守党内で自らの首相としての地位を確固たるものにしようと望んで、保守党有利の選挙予測を鵜呑みにして必要でなかった総選挙に踏み切った。その結果は惨憺たるもので、保守党は過半数の議席を失うという結果となった。弱体化した保守党政権がEUとの交渉に臨まねばならなくなったのである。キャメロンとメイのイーデンと同じく読みの甘さであった。

Brexitが英国に悲劇をもたらす兆候はすでに表面化している。ポンドはユーロの前に既に16%下落している。GDPは昨年比0.2%後退。自動車の販売は2016年半ばから10%の減少。クレジット・カードの負債は10%上昇。大手銀行はヨーロッパ大陸への移転の為の具体的な検討に入っている。HSBCは本社をパリに移し、バークレーはダブリンに移転させることになっている。

ドイツの経済紙「Handelsblatt」の編集長ガボール・ステインガートは英国のインフレ上昇率に比べ昇給率は少なく、多くの英国人の実質給与の減少を意味するようになっていると指摘。「これは、Brexit推進者が公約していたこととは全く反対の結果になっている」と述べた(出典:elconfidencial.com)。

EUのリスボン条約の作成にも参加した経験をもつジョン・カー卿は現在スコットランドの60人から成るグループのリーダーとして英国政府にBrexitの交渉を中断するように忠言している。その彼が指摘しているのはEUから離脱することは悲劇的結果をもたらすことになるというということである。

また同氏は「民主政治では熟考して当初とは異なった選択をすることはいつも許されている。Brexit について再考が必要である」と指摘し、元防衛相のジョージ・ロバートソンを含め企業経営者やNGO運営者らと連名で「この進展を中断させて、新たな視点から英国全土で議論されることが必要である」と綴った公開状を披露した。(出典:elconfidencial.com

この公開状が公にされた時は、保守党内でも財務相のフィリップ・ハモンドが経済的ダメージをできるだけ少なくすべきだとして、単一市場との接点を継続するSoft Brexitを示唆した時と重なった。その時点ではまだ保守党内ではメイ首相を始め、Hard Brexitを主張する議員が主流を占めていたのである。

その様な中で、「The Independent」が7月25日付で2010-2014年にEU議会の英国代表だったステーブ・ブロックが「Brexitは誰もが想像する以上に厳しい結果をもたらすようになる」と述べて同紙に寄稿した内容を報じた。

同様に再考が必要とされているのは英国がBrexitに伴い、欧州原子力共同体(Euratom)からの離脱も含むとされていることである。それは英国の原子力産業の進展にマイナス影響する可能性があり、またアイソトープ治療にも支障をきたすようになると指摘されている。(出典:elconfidencial.com

同様にBrexitが大学にもマイナス影響をもたらす可能性があるとしているDeloitte LLPの調査がある。それによると、EU加盟国の出身者で英国の大学で研究活動をしているプロフェッサーの47%が英国を離れる意向を持っているというのである。即ち、それは能力あるプロフェッサーを英国は失う可能性があるということを意味することになる。また、英国の大学で研究活動をしたいと望む研究生の数がこの僅か13カ月で14%減少したという調査結果も出ているそうだ。

英国で教授の学位取得に励んでいる研究生の半分は外人であるが、Brexitが決定してから2018年度の研究希望者が40%減少したそうだ。

英国はこれまでEU28か国の中で教育資金として最も高額の40億ポンド(5840億円)を受領して来た。また、学術論文においてもEUの中の4分の1が英国で発表されていたとしている。

仮に英国がEUから離脱すれば、大学教育においてもこれらの数字が示すように、マイナス影響をもたらすことは自明である。