アメリカのニュースで家具のイケヤが最低賃金を17%上げるというニュースが出ていました。時給で10.76ドルにするというものです。カナダの新聞には「アメリカだけ!」というややひねくれたトーンで記載されていましたがアメリカはオバマ大統領の最低時給の引き上げ政策を含め、底上げが進んでいるように思えます。
カナダも比較的時給が高い国で州ごとに最低時給の規定があります。オンタリオ州では6月1日から11ドルですし、バンクーバーを含むBC州の場合、2011年から1年間で段階的に8ドルから10.25ドルまで28%も上昇させました。結果として招いたのは物価の上昇。特にレストランなどが最低時給プラスチップの制度を取っているところが多かったこともあり、メニューの料金がグッと上がり、結果として一時的に売り上げ減を招いたこともありました。
ただ、物価というのは上がった瞬間は反動があるのですが、必ずこなれてくるもので多少の振り落としはあるものの人々はしぶしぶ受け入れるというのが歴史ではないかと思います。ただ、アメリカにしてもカナダにしてもレストランの価格は日本からみればばかばかしいぐらい高く、街中のそのあたりのレストランの料金が日本ではホテルで食事ができるぐらいの価格であることもしばしば起こり得るのです。
カナダではさらに悩ましいことが発生しています。それは外国人の就労ビザの規定が変わったことでしょうか? カナダ政府は今までの就労ビザや移民権について包括的に見直しを進めており、就労ビザについては6月20日付で新たなプログラムが即日執行されています。その内容をざっと見る限り駐在員やかなり高い水準の特殊能力を持つ方の就労ビザ以外は取得のハードルが上がったと思われます。例えばそれまで日本レストランなどでキッチンなどに入る人のビザは割と出ていたのですが、申請料を4倍に引き上げたり実質的な最低賃金が20ドル程度の水準を満たし、「高度で特殊、カナダ人には代替できない技能」を改めて要求されるようです。その上、政府の監視頻度と期間をかなり高めることで申請時と実態が違ったりするケースをブラック企業として摘発する動きになっています。
これが物価に影響しないわけがありません。
では日本ではなぜ、消費者向けの価格はまだ上がってこないのでしょうか? 私は販売のボリュームがまだ高く、人件費の上昇を吸収できる余力があるのではないかとみています。カナダやアメリカの地方都市を見ると人口が圧倒的に少なく、結果として単位当たりの売り上げも日本の足元にも及ばないケースが多いものです。結果として売り上げに対する人件費比率が高く価格に反映させないといけないということかと思います。
日本で物価が上昇すると就労者層は給与の上昇を含めた経済のプラスの回転が効いてきますのでこれは長期的には好影響を与えます。ただ問題は高齢者です。ある調査によると日本の貯蓄率は既にマイナス。特に高齢者が貯金を取り崩しているとされ、個人の貯蓄額は今後減少していくとみられています。貯金を取り崩している高齢者が物価上昇時においての行動はとりもなおさず、「我慢」になってしまい、日本の消費の原動力である高齢者の消費が低下、結果として日本全体の需給バランス改善にマイナスになるという推論も成り立ってしまうのです。
純粋に経済だけのことを言えば外国人労働者を一時的に受け入れた方がうまく回る可能性は高いと思います。勿論反対の声が多いのは十分わかっていますが、街中にはすでに外国人労働者がかなり多く、日本経済を支えつつある点は否めないのであります。
経済とは本当に難しいバランスの上に立っていると思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。