米国FDAがペムブロリズマブと他剤との併用で注意喚起

8月31日付けで、米国FDAはペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)とデキサメサゾン(ステロイド)+免疫調節薬(レナリドマミド 、ポマリドミド)との併用に対する注意喚起を行った。ペムブロリズマブとこれらの他の薬剤を利用した、多発性骨髄腫に対する2つの臨床試験(KEYNOTE-183、KEYNOTE-185と呼ばれている)の患者登録は6月12日にすでに中止されていた。

KEYNOTE-183試験は、ポマリドミド(新生児の奇形で問題となったサリドマイドを改良したもの)+低用量のデキサメサゾンにペムブロリズマブを追加する群と追加しない群の2群に分ける形で比較する試験であり、KEYNOTE-185試験は、レナリドマミド+低用量のデキサメサゾンにペムブロリズマブを追加する群と追加しない群の2群に分ける形で比較する試験である。

前者では患者の死亡リスクが1.61倍、後者では2.06倍になると報告されていた。ただし、両試験とも、これらの差は統計学的に有意ではないのでこの数字は絶対的なものではない。しかし、グレード3-5(5は死亡)の有害事象の頻度は、前者で63%対46%、後者では54%対39%と、いずれもペムブロリズマブを追加したグループで高くなっていたので、患者さんのことを考えるれば、臨床試験の中止は妥当な判断であると思う。

しかし、これらの結果は、決してペムブロリズマブそのものに問題があることを意味はしていない。FDAも承認を受けた範囲でのペムブロリズマブの利用を妨げるものではないとコメントしている。免疫チェックポイント抗体と分子標的治療法を含む化学療法や放射線療法の併用試験が多数行われているが、これらの臨床試験には影響しない。もちろん、同様のケースが起こる可能性は否定できない。

これらのデータは、作用機序が異なるものを組み合わせれば、さらに効果が上がると、単純には行かないを示唆している。今回の場合、免疫調整薬という免疫系に影響を与える薬剤であったので、このような結果になっただけかもしれない。しっかりとしたモニタリング体制が重要だ。

この観点で日本の現状を眺めると、不安で一杯だ。自由診療と称して、これらの免疫チェックポイント抗体が安易に患者さんに投与されているからだ。大きな医療機関は、保険収載されていない薬剤との混合診療はしないし、患者さんが求めても、標準療法が自分の天命だと思っている医師は、耳を傾けようとしないのが日常だ。

もっとひどいのは、「それなら他の医療機関を受診しろ」と患者さんを恫喝する医師もいることだ。そこで起きるのが、主治医に内緒で種々の免疫療法を受けることである。したがって、多くの場合、併用されていることを把握できない状況となっている。患者さんの心はがんの再発や悪化で不安で一杯なのだ。そして、インターネットで何かないものかと検索しているうちに、ついつい悪魔のささやきに誘導されることが少なくないように思う。

お金だけが命の医師は、専門知識もないままにがんの治療薬を投与するので、いつ何が起こってもおかしくないのが実情だ。

たとえ自由診療であっっても、しっかりと医療の実態を把握する仕組みを構築しなければ、必ず、不幸は起きる。ある患者さんが、複数の医療機関やクリニックを受診しても、その患者さんに、いつ、誰が、どんな治療薬・治療法が提供されたのかを集約できれば、患者さんの安全確保につながるし、医療の進歩に寄与することは確実だ。

しかし、「何が何でもプライバシー」の壁が立ちはだかり、そんな壁を見て、白衣を着た詐欺師はほくそ笑むに違いない。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。