都市伝説ではありませんが、「人々に信じられている誤った定説」は数多くあります。「メラビアンの法則」や「バードウィステルの研究」もそのひとつと思われます。メラビアンの法則も、バードウィステルの研究も非言語コミュニケーション(Nonverbal communication)として広まった考え方です。
メラビアンの法則とは、人に情報が伝わるとき、視覚(ビジュアル)、聴覚(音声)、言語(文字)の3つの要素があり、それぞれの伝わる頻度を数値化したものとして知られています。情報によって伝えられるのは「視覚55%、聴覚38%、言語7%」に過ぎないため、視覚(ビジュアルや見た目)が重要といった飛躍した意味不明な考え方が未だに蔓延しています。
バードウィステルの研究は「二者間の対話では、言語で伝えられるメッセージは、全体の35%にすぎず、残りの65%は、話しぶり、動作、ジェスチャー、相手との間の取り方など、言葉以外の手段によって伝えられる」というものです。
ところが、メラビアンの法則は既に、研究者であるメラビアン自身が「誤った研究結果であること」を認めていること。バードウィステルの研究も、バードウィステル自身が「ある特定の条件で実験した結果であり、一般的に適用はできない」と述べています。ところが、メラビアンの法則、バードウィステルの研究は、未だに研修講師やコンサルタントを中心に、事実とは全く異なった解釈で誇張して伝えられ続けています。
●何故このような伝わり方をするのか
まず、これらの理論を引用する研修講師やコンサルタントのほとんどは、成立した時期や背景について全く言及していません。この2つの研究が発表されたのは、1970年代の初めです。ちなみに、非言語分野の系譜について簡潔にまとめると次のようになります。
『非言語分野はチャールズ・ダーウィン「The expression of the emotions in man and animals」(1872)により成立し、その後に派生した。1970年以降の研究として、レイ・バードウィステル「Kinesics and Context」(1970)、アルバート・メラビアン「Silent messages」(1971)があるが、近年は、ジェラルド・ザルトマン「How Customers Think」(2003)が発表され「心脳マーケティング」(2005)としてHarvard Businessより和訳された』
43~44年前(約半世紀前)の学説を、あたかも現代でも使える理論のように紹介していることに問題があるわけです。学術的にいえば、この2つの理論は既に先端なものではありません。仮に紹介するなら、過去の研究の一つであったこと、いまでは活用できないことを明確にしなくてはいけません。
非言語学の先端理論としては「How Customers Think」で紹介されている「人間が言語化できる情報は5%。残りの95%は言語化されない」(ザルトマン)が注目されていますが、この理論は非常に興味深いと思います。
●読者への示唆
「メラビアンの法則」「バードウィステルの研究」は、研究者自身が誤っていることを明言しています。最近では、学生向けの就活ゼミやセミナーで使われているケースを耳にします。就活以外では、営業活動、社内のマネジメント、恋愛・婚活、数えたらキリがありません。研究者の意図を超えて勝手に拡大解釈されて成長する理論にも困ったものです。
尾藤克之
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