北の金王朝は国民に「寿命」を返せ!

長谷川 良

数年前、このテーマでコラムを書いた覚えがあるが、国連人口基金(UNFPA)の2017年の「世界人口白書」を読むと、強い憤りを感じ、再度、書きだした次第だ。

北朝鮮最高指導者の金正恩労働党委員長は単に核実験や弾道ミサイル発射の常習犯ではなく、国民(人民)の命を奪う国賊でもある。UNFPAによると、北朝鮮の女性の平均寿命は75歳、男性は68歳という。同胞の隣国、韓国では女性85歳、男性は79歳と推定されているから、南北で平均寿命がどれだけ違うか、先ず、計算してほしい。女性で約10歳、男性で11歳の寿命の差があるのだ。もちろん、韓国側が圧倒的に長い。

風になびく北の国旗(2013年4月11日、ウィーンの北朝鮮大使館で撮影)

平均寿命が長いからいいというのではない。DNAの違いから、平均寿命が短い民族が存在すると聞くが、南北の両国民は基本的には同民族だ。同じ環境下にあれば、北側の寿命も韓国とそれほど違いはないだろう。換言すれば、北朝鮮の金王朝、故金日成主席、故金正日総書記、そして現代の金正恩委員長の3代王朝で北の国民は男女とも10年以上、韓国民より寿命が短くなった。金王朝は国民から寿命を奪ったのだ。

寿命10年の違いは何を意味するか、考えてほしい。多くの説明は要らないだろう。金正恩氏は北が核開発に拘る理由は米国の侵略を阻止するためと詭弁を弄する。それでは、南北間の国民の寿命の差は何の結果か。

北の人口は推定2550万人だ。2550万人に平均10年の寿命を掛けると2億5500万歳の寿命が失われたことになる。北には国内に数カ所の政治犯収容所があって、そこには20万人以上の国民が強制収容されている。この人権蹂躙は大きいが、2億5500歳の年月を奪った犯罪を何と比較できるだろうか。

国民の平均寿命には、その国の経済力、政治、社会状況などさまざまな要因が絡んでくる。北の場合、韓国民より平均寿命が10年以上短い背後には、国民の食糧事情の影響が大きいことは間違いないだろう。

ラムズフェルド米国防長官(当時)は2002年、夜間の朝鮮半島の衛星写真を紹介し、「韓国は夜でも明るく、北朝鮮は闇の中に完全に消滅している。その南北のコントラストを見れば、南北のどちらが発展しているかは一目瞭然だ」と述べたことがあるが、南北間の平均寿命の違いは、両国の発展の差をもっと痛々しいほど鮮明に示している。

UNFPAによると、「2010年から今年までの北朝鮮の年平均人口増加率は0.5%で、アジア・太平洋地域の平均の1.0%と世界平均の1.2%より低かった」(韓国聯合ニュース)という。UNFPAの統計は金王朝への最大の警告だ。

故金日成主席は「白いご飯に肉のスープを食べ、瓦の家で絹の服を着て暮らす生活」を国民に約束したが、現実の北では多くの国民は飢餓寸前の状況下にある。栄養失調は国民の寿命を短くさせる。21世紀の今日、栄養失調で寿命が失われるという国家はアジアでは北朝鮮だけではないか。

金正恩氏は今月7日、朝鮮労働党中央委員会総会で経済建設と核戦力建設の並進路線を強調したが、国民が失った寿命を回復させるために何が必要か、金正恩氏も知らないはずがない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。