慰安婦問題について私が外国人に話している事

松本 徹三

慰安婦問題については、吉田清治の荒唐無稽な創作手記の内容を踏襲した朝日新聞の記事や韓国の団体の作った資料は、私のような「かつての軍国主義体制に強く反撥してきた人間」にとってさえも、反吐が出る程に不快なものだ。だから、「これが世界中に広まってしまった現状」をそのまま放置していてよいとはとても思えない。しかし、問題は、それなら具体的にどうすればよいのかという事だ。


多くの人たちが指摘するように、右翼的な傾向の強い人たちの「感情的な(悲憤慷慨型の)反論」や、多分に誤解されている日本政府の「切り口上的な官僚的反論」は、事態をより悪化させる恐れは十分にある。朝日新聞等が各国の報道機関に対して、「広告」等の方法で自らの誤りを率直に報告して謝罪する事は当然必要だが、「日本政府」や「日本人有志」が意見広告を出すなどは、あまり奨められない。

最も必要な事は、先ずは政府要人や経済人や学者等の数多くの日本人が、それぞれに繋がりのある外国人に対して個人的に丁寧に説明し、随所で誤解を正していき、この「大掛かりな国際詐欺事件(悪質な風説の流布)」の影響が、少なくともこれ以上は拡大しないように努力していく事だと思う。

現実に、私自身は、「蟷螂の斧」と冷笑される事も意に介さずにそうしており、ちゃんと説明すれば、誰でもが「ああ、そうだったのか。疑問が解けた」と納得してくれている。今日はその事実の一例を簡単にご報告しておきたい(簡単にとは言っても、何分にも大掛かりな国際詐欺事件なので、恐ろしい長文になってしまうが、最後迄お付き合い願えれば有難い)。 

ビジネス上の交渉の時もそうだが、私は、先ずは「相手がこう考えているだろうと思われる事」を先手を打って代弁する事から議論を始める。具体的には、相手が米国人である場合を例にとると、下記のような会話が話のきっかけになる。

私: それはそうと、米国人の多くは「北朝鮮問題が危機的な状況にあるのに、日韓が『慰安婦問題』や『靖国(米国人はWar Shrineと呼ぶ)参拝問題』で反撥しあっているのは一体どういう事なのか」と苛立っているのではないですか?

相手: そんな事はないよ。各国には各国の事情がある事は分かっている。でも、日韓両国とも、何か優先順位が違っているのではないかとは思うけど。

私: いやいや、私が貴方なら、絶対に苛立っていますよ。そして、「日本人は何故過去の正当化にそんなに拘るのか?」「過去に弱い立場にあった人たちに何故もっと同情的になれないのか?」と思う。そうでしょう?

相手: まあ、そう言われればそうだね。

私: でしょう? でも、実は、それにはそれなりの理由があるのですよ。長い話になりますが、一寸聞いてくれますか?

相手: いいよ。

私: 話は30年前にまで遡るのです。大戦中の日本では言論統制が厳しく、軍国体制の批判などはもっての外というような状態でしたので、敗戦と共にこの統制が外れると、旧日本軍の内幕を暴露した新聞雑誌の記事や本がどっと出てきました。それは大変良い事だったのですが、その中には、ありもしなかった極端な事をあったかの如く書いて、自分の売名と原稿料稼ぎに利用するような人もいました。

この中でも吉田清治という人物が書いた「私の戦争犯罪」という「手記」の内容は酷いもので、「自分が当時日本に併合されていた現在の韓国の済州島に軍属として住んでいた時に、軍令に従って兵士を動員して、村々から泣き叫ぶ少女たちを拉致して前線の軍の慰安所(売春施設)に送った」と書き、その上、彼はこの本の宣伝の為に韓国の国内で「お詫び行脚」までしたのです。ところが、これに疑問をもった何人かの日本人が済州島まで行って土地の人たちに尋ねたところ、みんな目を丸くして「そんな事は全くなかった」と完全否定しました。こうして、これが全くの「作り話」だったという事はすぐに判明したのですが、ここで吉田清治は朝日新聞という強力な支援者を得ます。

朝日新聞は、全国で数百万部の発行部数を誇る「日本で最も影響力のある日刊紙の筆頭格」ですが、戦時中は軍部を礼賛し国民の戦意を高揚させる事に最も熱心だったにも関わらず、戦後は一転して左翼的な傾向を顕著に打ち出していました。その朝日新聞の記者が、何等かの思惑によって、この内容をあたかも自ら確かめた事実であるかのような表現で大々的に報じ、吉田清治が米国各地で宣伝をするのを支援までしたのです。

更に驚くべき事に、1995年に至って、吉田自身が遂にシラを切り通せなくなって「実はあれは自分の創作だった(だって面白く書かないと本が売れないから)」と告白した後も、朝日新聞は自らの報道を訂正せず、最初の記事から30年以上も経った今年の8月5日に至って、ようやく「虚偽だった」として全ての記事を取り消しました。この間、朝日新聞は、実に16回にわたって、この「作り話」をベースとした記事を継続して掲載してきたのです。
   
相手: (目を丸くして)え? 何故?

私: 米国はジャーナリストの倫理には厳しい国ですから、こんな事は到底理解出来ないでしょう。でも、それには歴史的背景があるのです(ここで、私は戦後の言論界を支配した「進歩的文化人」についての解説をして、これらの人たちにとっては「一般人に真理を伝える事」などはどうでも良く、「一般人を左翼思想で啓蒙する事」こそが自分たちの使命だと考えている事を丁寧に説明しますが、ここでは詳細は割愛します)。

相手: ふーん。それはびっくりだね。

私: 当時の学生やジャーナリストを含む知識人の多くは、基本的に中ソ陣営にシンパシーを持つ左派で、親米で資本主義経済を推進する立場の自民党は、保守的で「若干懐古的な」農漁村等の票に頼って政権を維持していました。だから、左派系のジャーナリストの代表格だった朝日新聞の記者たちが、戦前の日本軍の悪行等を殊更に誇張して伝える事に意欲を持ったのは、この層の切り崩しを狙っての事ではないかと推測する人もいます。しかし、それにしては執念があまりに強すぎるので、「北朝鮮や韓国の左派(民主化運動家)への支援が主目的だったのではないか」と考えている人のほうが現在は多いようです。

相手: ふーん(明らかに、まだ理解出来ないでいる顔)。

私: さて、このように、現在の韓国政府が「対日強硬論」の切り札としている「慰安婦問題」は、実は皮肉にも一握りの日本人たちが熱心に仕掛けたものだったのですが、一旦こういう流れになると、「反日」を「国民統合の接着剤」と考えている韓国政府が、大々的にこれに乗らないわけはありません。まずは日本の左派の弁護士たちと、北朝鮮と親密な韓国の左派系の団体が、既に静かな生活を送っていた数人の元慰安婦の方々を捜し出して証人になるように奨め、自分たちが彼等に証言して欲しい内容を逐一コーチしました。

しかも、これらの弁護士や団体には「これを上手く利用すれば、日本から新たな賠償金をとる事が出来る(弁護士たちにとっては売名に使える上に良い商売のネタが出来る)」と考えていた節があり、巧みに且つ大掛かりに世論を誘導。その成果が見えてくると、彼等の言動は年を追うごとに過激になっていきました。

(ここで、私は、「日韓併合」の経緯や、それが生み出し、現在の韓国人にも引き継がれている「複雑な心理」、まともな抗日運動も出来なかった「多くの韓国人の精神的な負い目」、韓国特有の「恨」の文化、「南北分断」と「反日」の関係、「何とか日韓を離反させたい北朝鮮やそれに繋がる韓国の左翼組織の思惑」等々を、私の「意見」として開陳していますが、ここでは詳細は省略します。私には韓国に住んだ経験もあって、韓国人の友人も多く、日韓両国の近代史も相当勉強してきているので、そういった私の話には相当の説得力がある筈だと自負しています)

相手: 成る程(相当興味を持った様子で、姿勢が前のめりになってきた)。

私: ところで、現在「かつての日本が国家権力によって無垢の少女たちを拉致し日本兵の為の性奴隷として働かせた」と言い立てている人たち(国連のクマラスワミ女史や米国下院のニューヨークタイムズのタブチ記者等を含む)が唯一の根拠としているのは、元慰安婦だったとして名乗り出た数人の方々の「反対尋問のない証言」だけですが、私自身を含む多くの日本人は、「吉田清治の話が完全に嘘だったように、彼女たちの『証言』も勿論『作り話』で、周りの人たちが言わせているだけ」と信じています。

勿論、それが「吉田清治の創作を敷き写した『作り話』だと考えざるを得ない根拠」は数多くあります。例えば、証人が住んでいた地方都市には証言の中に登場する日本軍の駐屯地等は全く存在しなかった事。当時日本の一部となっていた朝鮮半島で、日本の総督府が履行責任を持つ法律を破って、軍が勝手に乱暴狼藉を働く事などは、常識的に考えてもあり得なかった事。これらの僅か数人の元慰安婦の「証言」以外には「物的証拠」は何一つ発見されていない事(こんな事は通常はあり得ない)。これらの証人の周りは常に韓国の活動グループや日本の左派の弁護士が固めていた事が影響してか、何人かの元慰安婦の証言内容が途中で大きく変わった事。等々です。

相手: へえ、それって本当なの? 初めて聞く話ばかりだなあ。

私: そうでしょう? そこが大問題なのです。日本軍が鬼畜のように振る舞ったおぞましい情景を、日本の大新聞があたかも真実であったかのように報じたのですから、普通の日本人の多くは「信じ難い事だがそんな事もあったのかもしれない。とにかく謝罪でも何でもして、こんな醜悪な話は早く終りにしたい」と考えたのも当然でしょう。現実に、日本の地方議会等でも、共産党や社会党が提案した非難決議案等は大体可決されています。これに異議を挟むと「このような酷い事をした自分の国をなおも擁護しようというのか」と攻撃される事は目に見えていたからです。

日本政府自体もそういう立場で、「吉田清治の作り話や韓国政府がお膳立てした証人の話を鵜呑みにしたクマラスワミ報告」が出た時には、日本の外務省は数十ページに及ぶ反論書を用意したのですが、上層部は問題を荒立てる事を嫌ってこの提出を抑えました。また、1993年には、日韓関係の改善を急いだ宮沢内閣は、首相名での丁重な「お詫びの手紙」の手渡しと「アジア女性基金」による賠償金の支払を決めただけでなく、「ここまで言ってくれれば反日世論を抑える」と約束した韓国政府の言葉を信じて、「強制連行」を事実として受け入れたとも解釈されかねない「河野談話」というものも同時に発表しました。

ところが、現実には、韓国政府は「反日」を抑えるどころか、「首相名の丁重なお詫びの手紙」などには目もくれず、何故か「女性基金などではなく、国家賠償とすべきだ」と頑に主張して、ソウルの日本大使館前や米国の幾つかの都市に慰安婦像を建てたり、ニューヨークの電光掲示板に広告を出す等、行動をエスカレートしました。

事ここに至ると、これまでは「事なかれ主義」に徹していた日本の世論の流れも、流石に変わってきました。多くの米国人は「これは右翼的傾向の強い安倍首相による方針転換だ」と受け止めているでしょうが、それは違います。韓国に極めて強い親近感を持っている私自身が言うのだから信じて欲しいのですが、韓国政府の「侮日」は一線を越えてしまい、残念ながら、日本でも「嫌韓感情」が日増しに高まっています。

「日韓の不仲は中国や北朝鮮を利する」と考える米国政府は、「謝罪程度は何という事はないじゃあないか」「金銭で解決出来る事なら、名目等に拘らず、早く済ましてしまったらいいじゃあないか」と簡単に考えるでしょうが、当事者である日本人としてはやはりそうはいきません。「作り話をベースにした非難に対して謝罪するわけにはいかない(嘘を認めるわけにはいかない)」という原則は譲れないのです。そして、それこそが、「国家賠償」ではなく「アジア女性基金からの拠出」にせざるを得なかった理由でもあります。考えてもみて下さい。もし貴方のお父さんが婦女暴行の濡れ衣をきせられたら、それが濡れ衣である事を知りながらも、貴方はお父さんに代わって謝罪しますか?

勿論、戦場に兵士たちの為の売春施設を作った事は決して良い事とは言えません。また、貧困故に自分の娘を女衒に売る事が頻繁に行われていた当時の社会では、このような売春施設で自分の意志に反して無理矢理に連れてこられた数多くの女性たちが悲惨な毎日を過ごさざるを得なかった現実は、誰にでも分かっていた事ですから、それを防ぎ得なかった事に対し、当時の日本人になり代わって現在の日本人が深く詫びる事を躊躇う理由はどこにもありません。しかし、「ありもしなかったおぞましい出来事」を「あった事にする」のは「正義」にもとる事であり、到底受け入れるわけにはいかないのです。

また、ここには更にもう一つ重要な問題があります。それは、「挺対協」などの韓国の団体が、当時の日本の「女子挺身隊(労働奉仕隊)制度」を、全く関係のない「従軍慰安婦制度」と無理に結びつけようと試み、あくまで「国家賠償」に固執してきた事です。それは何故でしょうか? ここには「一旦慰安婦に対する国家賠償がとれれば、次は徴用工などに請求権を拡大出来、日本から巨額の金がむしりとれる」という思惑が見え隠れしています。現実に、同様の試みを熱心に続けてきた日本の一部の弁護士にも、明らかに金目当てと思われる言動がありました。多くの日本人は、このような策謀に乗せられて自分たちの税金を理不尽に外国に流出させる事を、もはや受け入れる事は出来ないのです。だから「国家賠償」はあり得ません。

以上、長い話になりましたが(通常30分位かかります)、単純な話ではない事はお分かり頂けましたか?

相手: よく分かったよ。でも、困った事だねえ(と言って、頭を抱える)。