シェアリング居酒屋エコノミー

ヒラメのカルパッチョに白。メインは鴨で、赤。チーズ、デザート、コーヒー、コニャック。ごちそうさま。おいしかった。まんぞく。
でも、ヨコめしは苦手です。定められた時間割と順番の整然とした秩序が苦しい。のであります

懐石コース。先付、八寸、煮物、焼物、強肴、食事、甘味。おいしかった。まんぞく。
でも、タテめしも苦手です。順番に、自分の前に、自分だけの小皿が並んでいき、それに従うのが窮屈なのです。

そうなると居酒屋っしょ。枝豆、ギョーザ、だし巻き、ポテサラ、焼き鳥、やっこ、ホッケ。和洋中混合であります。前菜もメインも同時に頼んじゃいます。好きなタイミングで、バラバラに頼んじゃいます。時間割から解放されます。

めいめいが他者も食べたいであろうものを思いやって注文します。主導権は店ではなく、客にあります。ヒエラルキーは崩れており、無秩序であります。

基本はシェアです。コミュニティによるコミュニケーションです。
鍋をみんなでつつく、アジアのスタイルがベースです。それを多様で小口の品目に機動性をもたせたのが居酒屋。

シェアするのは世界ではレアなのだそうです。イタリア人に聞くと、ピザにしろパスタにしろ、取り分けはあるけど、自分の分は自分のものという責任分界は明確で、ジカバシでエエやないですか、というあいまいな領土感は信じられないそうで。

居酒屋は、ソーシャルメディアです。いくつもの、勝手に差し出されたコンテンツを、めいめい勝手についばみ、好きなように盛り上がる。ヨコめしは、パケット通信的で、放送的です。一つ一つ規則に則り、きちんと差し出され、運ばれます。

ヨコめしの場は、同じワインで統一されます。ホストが選び、試飲して振る舞うのです。居酒屋は、ナマ、八海山、ジントニック、黒糖ソーダ割り、すみませんオレ烏龍茶、自由です。

飲みホつける?に世界は驚きます。ビジネスとして成り立たない、食べ放題はあるけど飲み放題はない、と外国人は言います。

でも日本人は昔から大量に飲んでいたことが知られています。江戸時代も今と同じくらいの量を飲んでいて、しかも朝から飲んでいたといいます。回るビジネスモデルを編み出したということでしょう。

「居酒屋の誕生」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2015/11/blog-post_30.html

ところでぼくは食いながら飲むときは焼酎ばかりなのですが、ヨコめしにはメシ途中の蒸留酒がないですね。ウィスキー、コニャック、カルバドス、グラッパは食後まで待たないといけない。洋行で苦労するのが食中酒。

近頃マイ箸を持ち歩く人がいます。大皿はシェアするけど、箸は自分のもの。家では自分の箸は決まってますからね。ぼくの家では正月には期間限定の箸袋に名前が書かれました。箸は記名式です。

でもフォーク、ナイフは無記名ですよね。ヨコめしは食器は共用です。そして食べ物を小分けして記名する。対称的です。

居酒屋がアメリカで繁盛していると聞きます。シェア食べも広がりつつあるとか。リーマンショック後、シェアリングエコノミーが広がりました。部屋、車、カバンなどに次いで、どうやら食事もシェアリングが来ている模様です。

居酒屋文化、広がってください。世界へ。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。