日本企業の不祥事が相次いでいる。いずれも大企業、有名企業ばかりだ。
はじめは、東芝の不祥事だった。2015年に粉飾決算が発覚したのだ。09年から15年にかけて、東芝は利益を水増しして会計処理をしていた。つまり、6年もの間、不正を続けていた。役員クラスの人間なら誰でも、この不正は当然わかったはずだ。なのに、声をあげた者はいなかった。なぜなのか。
かつて僕は、山本七平さんと話をしたことがある。山本さんは「日本は空気の国だ」と言っていた。日本では、組織や人間関係を包み、覆っている「空気」を破るのはタブーなのである。
東芝の役員もまた例に漏れず、そうだったのだろう。彼らは、空気を破って不正を指摘し、左遷されるのを恐れたのだ。
この空気を守ることとは、要するに、「なれ合い」だ。東芝事件のひどさは、本来なら会計をチェックするはずの会計監査法人までが不正を見逃していたことだ。そして、さらにひどかったことがある。6年もの間、粉飾決算をしていたのだから、社長は起訴、逮捕するべきだ。ところが、検察は起訴しなかった。つまり、監査法人も検察も、空気を破ることができなかったのだろう。
もうひとつ付け加えるなら、事件を報じるメディアまでもが「粉飾決算」とは言わなかった。代わりに、「不適切会計」「不正会計」と呼んでいた。大企業と検察、監査法人、メディア……。これらすべてが「なれ合い」だったのだ。
堀江貴文さんは、たった一度の粉飾決算で、2年8カ月の実刑判決を受け、服役した。メディアにも目茶苦茶に叩かれた。ベンチャー起業家の堀江さんと、検察、メディアとの間に、「なれ合い」はなかったということだ。
東芝事件の後も、有名企業の不祥事が続いた。日産自動車やスバルの無資格者検査問題、神戸製鋼と三菱マテリアルの品質データ改ざん、先日は東レのデータ改ざんも明るみになった。
神戸製鋼は、自動車や飛行機の材料を生産する大手鉄鋼メーカーだ。万が一、事故が起こったら、いったいどう責任を取るのか。また東レは、経団連会長の榊原定征さんが相談役を務める企業だ。世界で活躍する日本企業の不正がこんなに相次いだら、まだ他にもあるに違いないと思われて仕方がないのではないか。
これまで日本企業の品質は、世界で高い評価を受けてきた。しかし、このままでは日本の信用は、たちまち地に堕ちてしまうだろう。どうして、こんなことになったのか。
1990年代後半、日本の経済成長は終わり、その後、デフレの時代に入った。デフレ時代で、儲けるためにもっとも重要な課題は何か。それは、コストダウンだ。いかに安く物を作るか、である。
そのために多くの企業はリストラを行なった。正社員を減らし、非正規社員を増やしたのだ。その結果、現場のプライドが低下した。
それと、無資格者に検査をさせたのは、人手不足が原因かもしれない。いずれにしても、基準をクリアできず、品質証明を改ざんした。不正が横行するようになったのは、つまり、すべてコストダウンのためではないのか。
コストダウンのためなら、不正にも目をつぶる――。山本七平さんが言ったように、そういった「空気」に覆われているのが、今の日本なのだ。
しかし、このままでは日本企業、ひいては日本に対する信用は崩壊してしまうだろう。だから、「なれ合い」をやめて、「空気」を破るような人、そんな人たちが、どんどん表に出てきてほしいと、僕は心から願う。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年12月11日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。