先日、デリーでダライ・ラマ法王と面談し、同師と日本財団で共同設立した「ダライ・ラマ笹川ハンセン病奨学金」の設立記者会見を行った。内容としては、以下毎日新聞の報道の通り。
ダライ・ラマ14世:インドのハンセン病患者らに奨学金
◇日本財団とともに
【ニューデリー金子淳】日本財団(笹川陽平会長)とチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は来年から、インドのハンセン病患者や家族らを対象とする奨学金事業を始める。インドの患者らは後遺症から差別の対象とされ、就職できずに物乞いで生計を立てざるを得ないケースも多いためだ。ダライ・ラマは21日、笹川会長と面会し「ハンセン病患者も同じ人間であり同等の権利がある。この問題に優先的に取り組むべきだ」と語った。
日本財団によると、インドは世界のハンセン病患者の半数以上が集中しており、年間約12万人の患者が発生している。国内には少なくとも850カ所のハンセン病患者の居住区があり、多くの患者らは集団生活を送るが、経済的理由で高等教育を受けられない若者も多いという。
奨学金は日本財団とダライ・ラマの寄付を基に運営。患者や回復者、家族を対象に年間計10万ドル(約1170万円)を奨学金として供与する。笹川会長は「高等教育を受けた指導者を輩出することが問題解決につながる」と話した。
記事を補足すると、現在、世界各国で新たにハンセン病に罹る方は年間約21万人。適切な治療を行えば、1年以内で完治する。かつては有効な治療法がなく、感染すると手足や顔に障害が発生することから大変恐れられ、多くの方々が差別にあい、家族の下からも引き離されてきた。インドは世界の中でもハンセン病患者が最も多く、年間12万人の新規患者数は世界の半数以上を占める。これまで1000万人以上の方が完治したと言われているが、病気が治った後でも障害が残っていたり、人々の病気に対する無知ゆえに根深い差別が残っているのが現状だ。
インドでは、他に行き着く場がなく自然発生的にハンセン病回復者たちが集まり住んで集落となったコロニーと呼ばれる場所が約850カ所ある。そこに暮らす方々のなかには、働き先もなく、物乞いで生計を立てざるを得ない方々も少なくない。日本のハンセン病療養所と異なる点は、そういった貧困の現実のみならず、多くのハンセン病回復者に子どもがいるということだ。子どもたちは差別と親の貧困という逆境の中生きているが、コロニーを訪ねると明るく元気で、「先生になりたい」「医者になりたい」といった将来の夢を持つ子どもたちが多い。
今回の奨学金はそういったハンセン病コロニーに住む子どもたちの中でも特に優秀だが、経済的に大学に通う余裕のない人の進学を支援するためのものだ。インドで高等教育に進めるのは、まだまだ全体でも15%ほどで、ハンセン病コロニーでは稀な存在だ。だからこそ、貧困と差別の負の連鎖を断ち切る力が教育にこそあると信じている。
私自身は全く境遇は異なるが、親の収入がゼロのなか、給付と貸与を含む奨学金や国の授業料免除制度によって東京大学やハーバード大学院に通うことができた。奨学金のありがたみは骨身にしみるほど体験してきた。そういった教育の機会を求めている人々は国内外にたくさんいる。今回の奨学金は微々たるものではあるが、ダライ・ラマ師の善意と日本財団のネットワークによって形にすることができた。この小さな行動によって、一人一人の人生が変わり、やがて世界が変わる力になることを信じ、期待したい。
関連記事
・家族から見捨てられ…インドの友人のスピーチ
・極貧の私は奨学金のおかけで東大・ハーバードに行けた
学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。