カシオ計算機が好調だ。2014年4~9月期の連結決算は売上高が5%増の1599億円、栄養利益は49%増の158億円だった。2009年3月期、20100年3月期と2期連続の最終赤字だったのとは様変わりである。
円安をてこに売上高の6割以上をアジアなど海外で稼いでおり、主力の腕時計「Gショック」の人気に加え、高性能デジタルカメラ、ケタ区切りや表記などで各国の文化に合わせた電卓の需要が伸びたからだ。
ここに、次代に勝ち残る日本企業の姿が浮き彫りになっていると思われる。
カシオと言えば、電卓の激安戦争を戦い、シャープとともに勝ち残った企業として知られるが、電卓は高シェアを築いたものの、市場飽和と低価格化で売上高の伸びが止まった。
携帯電話では北米向けの携帯電話機に不具合があったことに加えて、韓国メーカーなどとのシェア戦いに敗れて赤字を余儀なくされた。
デジカメも競合メーカーとの激しい過当競争に加えて、撮影機能を持つスマホの追い上げで業績が悪化、同社は2期連続の最終赤字に陥った。08年3月期にまで遡ると同期から3期にわたって7回連続、業績を下方修正している。
しかし、長引くどん底の経営によって生じた危機意識が、ここ数年の新機能商品の投入、拡充を導き、新たな成長、高収益を実現させたのだ。
世界的に有名になったGショックはその牽引車だ。時計と言えば、成熟商品の代表格であり、デジタル化によって今や安い商品は100円ショップでも売っている。100円でもデジタルだから時間はつねに正確である。
この価格競争を脱しているのが、スイスで有名な数十万円、数百万円もする舶来ブランド時計。豪華なデザインや宝石を散りばめた装飾が大衆商品と別世界の商品として差別化している。
カシオのGショックは低価格と、豪華ブランドとは異なる「第3の道」を切り開いて成功した。価格は5000円から1万5000円が主力で、大衆商品と高級商品の中間価格帯だが、大きな特徴は価格帯よりも堅牢性、丈夫ということにある。
10メートルから落下しても壊れず、防水、防圧、防塵、防泥の機能に優れている。気圧計や水深測定器、温度計、電波時計、ワールドタイム表示機能などを装備した機種も多い。それが米軍兵士などプロの軍人や警察官などに好まれ、次第に一般に広がっていった。
一般に好まれたのは機能以上にデザインだった。高級ブランド時計の洗練された薄さいの逆を行く、ゴツゴツした分厚い丈夫そうな形は「Gショック」という名称とともに、世界の若者に人気を呼び、浸透して行ったのだ。それは軍人の迷彩服がタウン・ファッションとして受け入れられて行った経過と似ている。
キアヌ・リーブス主演の映画「スピード」をはじめ、多数のアクション・戦争映画で愛用されたことも普及のてことなった。
カシオのデジカメも自分がどう映るか見ながら撮る事のできる自撮り機能を持った機種を開発したことが低価格競争を脱し、収益確保の基盤となった。
世界を舞台に活躍できる新商品を相次いで送り出したことが、業績急回復を実現させたわけだ。
日本は2012年末からわずか2年足らずで1ドル=80円弱の円高から同120円弱まで5割前後も円安になったのに、貿易赤字が続いている。このため「日本メーカーは多くの商品生産を海外に移転したために、円安になっても赤字をたら流す状態。これは構造的だ」という悲観論が流れている。
カシオの業績低迷も構造的と見られていた。しかし、3,4年でその見方を跳ね返した。円安をテコに海外で人気を呼びそうな斬新な商品を相次いで開発した成果である。
同じことは他の企業でも見られ、それが少しづつ貿易赤字を減らしつつある。製品だけではない、「キティちゃん」の愛称で知られるサンリオのキャラクターグッズ「ハローキティ」は今や、製品よりも「ハローキティ」の使用権そのものを海外で販売されており、サンリオの収入の柱になっている。
新たな日本ブランドは円安をてこに、今後も相次いで誕生し、海外で収益を生み出すと思われる。それが中国や韓国、東南アジアにはない日本の強みである。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年12月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。