昨年の流行語大賞は、「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」が選ばれた。「忖度」は森友学園問題や加計学園問題などの報道を通じて一般的になったが、いまいち使いどころなどが理解しにくい。実は、政治の世界では一般的ではない言葉が少なくない。永田町に出入りしている頃、次のようなことがあった。
まず、電話口では「政策(せいさく)」と聞こえる。「施策(せさく)」とも聞こえる。「明日は禁足(禁則?)です」「その件は知悉(地質?)していた」「いわんや(言わんや?)」。聞きなれない言葉がオンパレードで難しい。数え切れない失敗をして、ようやく言葉を理解していった。「忖度」はそんな言葉の一つだった。
シーンに合わせて相手に対して「忖度」すべき
受け取った書類の冒頭に何やら難しそうな、意味のわからない単語がある、これだけで拒絶感を示す方も多くいる。人は文章を読む際に、自分の〝メガネ〟に投影させて評価をする傾向がある。メガネとは人の価値観ですが、せっかくなら多くの人に共通するメガネのほうが得策。それだけ受け手の気持ちにミートしやすくなる。
ニュースを見ていてもわかるが、政治家は、わかるようなわからないような独特の表現をする。「虚心坦懐に」「遺憾の意」「真摯に」「諸般の事情に」、政界ではそれ単独では意味がわからない言葉が当たり前のように使われている。他人に説明する際には、その都度、わかりやすい言葉に置き換えなければいけない。次の文を読んでもらいたい。
<例文>
本件を厳粛に受け止め保有する情報については積極的に国民へ供することとする。今後、ますます脅威が増大するであろうことを念頭におき、解決に向けた連携を図りながら、所要の対策を講じて参ります。
これを、わかりやすくすると、次のように修正できる。
<修正後>
本件を厳しく受け止め、保有する情報は、積極的に国民の皆様へ開示します。今後、脅威が大きくなる可能性もあるので、対策については、その都度、対策を協議いたします。解決に向けて、各方面と密に連携を取り合う予定です。
専門用語やその業界では普通に使われている言葉は、慣れてしまうと正しい意味を理解せずに使っていたりするもの。当時、私は一つひとつきちんと意味を確認しながら、独特の言い回しを平易な言葉に置き換えて、ノートに整理していた。このようなトレーニングは、その後のキャリアパスでおおいに役立つことになった。
見た目をよくしたいなら接続詞
「接続詞」という品詞がある。「接続詞」を使うことで、2つの文章に分けることができる。基本的に、接続助詞とは区別して、次のように使用する。一般的な種類(順接、逆説、並列、説明、対比、転換)を紹介するが、なにしろ接続詞は重宝する。
<順接>
高校を卒業してすぐに上京した。(だから)実家には10年以上戻っていない。
<逆接>
9回裏怒涛の反撃で2アウト満塁とした。(しかし)あと一歩及ばなかった。
<並立>
立憲民主党の山尾志桜里は政治家である。(また)弁護士でもある。
<説明>
鈴木君は女子社員から人気がある。(なぜなら)やさしいからである。
<対比>
面接の結果については、電話(または)メールでお知らせします。
<転換>
今シーズンは終了しました。(ところで)来シーズンはルールが変更になります。
文から次の文にうつる際には、その関係を意識するが、適切な接続詞をつかうことで論理的な流れをつけやすくなる。さらに、「論理が明確になる」「内容の理解度が増す」「メリハリがつけられる」などの効果がある。
さて、そろそろまとめにはいりたい。ある分野の専門家が、他者に説明する場合、意外にうまくいかないことがある。一般の人がどこに疑問を感じているか、何がわからないのか、その世界にいる人は気づけないからである。これは長く同じ業界にいる人も同じ。
難しい言葉を使えば、知的に見える、しっかりした文章に見える、そのように思いこんでいた方、文章は相手の理解が得られなければ意味がない。「言葉を置き換える」「接続詞を効果的に使う」など、簡単な方法で見栄えをよくする方法はたくさんある。この機会に覚えておきたい。
参考書籍
『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)
尾藤克之
コラムニスト