初めての都会は…危険がいっぱい !?

荘司 雅彦

1980年前後のことでしょうか?2月~4月頃にかけて、東京では受験や入学で地方から上京してきた若者を狙う詐欺罪が横行していました。

当時は、ユニクロのような全国展開の衣料品店がなかったので、地方の若者は服装で見分けがついたのかもしれません。

私が受験のために上京して渋谷駅の前を歩いていた時、善良そうな青年が近づいてきてアンケートを頼まれました。

「ここに来た目的は?」「旅行は好き?」「普段いくらくらいお金を持ち歩いている?」などと訊かれた後、「ありがとう、お礼に特別限定の商品を持っていってね」と言って全国各地のホテルや旅館のクーポン券の綴を渡されました。

それを持って立ち去ろうとすると、「じゃあ、これ領収書。上様でいいよね。6万円ということで」と彼が領収書を切って私に渡そうとしました。

私は、「お金がいるのですか~?それだったらいりません」と突っ返しました。彼は、「さっき承諾したじゃないか」と追い打ちをかけてきましたが、ちょうどスクランブル交差点が青になったのでサッサと逃げてきました。

入学式を終え、私のアパートに同じ高校から上京してきたK君とT君が集まり、飲み会を催した時のことです。

「それにしても、東京って油断がならないな~。受験の時、渋谷駅で危うくホテルや旅館のクーポン券を買わされそうになったよ」と私が言うと、K君とT君が顔を合わせてニヤニヤ笑いながら、「これのことか」とクーポン券の綴を鞄の中から出してきました。

二人ともしっかり騙されていたのです。

よくよく考えるとこの手口、随所にしっかり罠が仕掛けられていたのです。

まず、3人共、もらえるものだと思ってクーポン券の綴を手にしました。

自分の意思で商品を自分の手元に移してしまったのです。

その後、すかさず領収書が切られるので、商品を返すことに抵抗を感じてしまいます(せっかく書いた領収書がムダになるという負い目かもしれません)。

さらに、「さっき承諾したじゃないか」と言われると、アンケートに答えている時に承諾らしき言葉を口走ったのではないかと不安になります。

契約違反をしたような罪悪感を覚えて、ついつい言いなりになってしまうのです。

数日後、私のアパートをドンドンとノックする音が聞こえ、ドアを開けると警備服を着た男性が2人入ってきました。

「杉並区で備え付けが義務付けられている消化器を見せてもらいます」と言うので、私は「持っていません…なにぶん引っ越してきたばかりなので」とオロオロしました。

「仕方がないですね~。今この消化器を買って備え付ければ、最初から備え付けていたことにします」と言われ、言われるがままに消火器2本を6万円で買ってしまいました。

彼らが去った後、「いくら何でも1部屋につき2本も義務付けるなんてやりすぎだ」と腹が立った私は、最寄りの消防署に文句を言いに行きました。

消防署の人が出てきて「消火器詐欺横行」という見出しの付いた新聞を見せてくれ「君、新入生だろ。6万円は痛手だったね~」と同情してくれました。

クーポン券詐欺を免れたことで「自分だけは騙されない」という根拠のない自信があったのでしょう。

その晩、近くに住んでいたT君にそのことを話すと、彼は大いに喜んでくれました。

昨今は高齢者相手の詐欺が主流になっているようですが、地方からの上京者が増える今の時期は若者も十分注意しましょう。

「自分は若いから騙されない」などと根拠のない自信を持っていると、私のような目に逢うかもしれませんよ(^^;)

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荘司雅彦
講談社
2014-02-14

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。