父・麻原彰晃(松本智津夫)は昏迷状態。最新の面会を求めた際の対応

松本 麗華

雪が降りしきる中、わたし @asaharasanjo は姉の宇未@umi_matsumotoと共に東京拘置所を訪れました。父に今年初の面会(父の姿や顔を見ること。以下、単に「面会」という場合にはこの意味で用います)を申し込むために。

父・麻原彰晃(松本智津夫)は、精神科医に拘禁反応による昏迷状態に陥っていると診断されていますが、治療も受けらず、拘置所に面会さえ妨害され、今は誰とも会わせてもらえません。

12時45分に窓口に面会申込書を出したわたしたちは、面会整理票を受け取りました。見慣れたピンク色の紙に、面会受付番号80、面会者人数②、面会実施フロア6階と、無意味な事項が記載されています。

東京拘置所で面会を申し込んだ者は、窓口で面会整理票を受け取り、面会に不要な物をロッカーに預け、空港にあるような金属チェッカーをくぐります。ここで面会整理票を見せないと、その奥には行けません。

その後長い廊下を歩いてエレベーターに乗り、面会整理票に書かれた面会実施フロアの階で降りると、そこにいる刑務官にも面会整理票を見せます。すると、「(面会室の)1号室に入って下さい」というように、指示されます。

面会整理票の色は面会実施フロアの階数によって異なっています。青や緑、ピンクといったように。
通常、面会をする場合、この紙は重要です。

ところが、父との面会では違います。父と面会できていたころ面会はすべて1階で行われ、6階に上がったことはありません。

また、東京拘置所が父との面会妨害をしている現在は、拘置所が受付をしたという体裁を整えるためだけに持たされる、無意味で切ない紙となりました。

でも、この紙を受け取る度に、「今度こそ会えるかも」と、はかない期待を抱いてしまうのです。

拘置所が面会の可否を伝えに来るまで、宇未とわたしは待合室にあるソファーに座って待っていました。雪のせいか、面会室の人の姿はまばらです。

宇未は面会の記録を取るノートに、何かを書き込み始めました。

2018年になった。会えなくなってから10年経つ。面会ができていたころ、この未来を知っていたらもっとたくさん面会を重ねることができていたろうか。

会えるという幸運に対する感謝は、当時のうつ状態に打ち勝ち、動くための力となっただろうか。
国家権力が一人の人間の身柄を拘束し、病気にし、治療をせず、隠ぺいし、誰にも会わせず、外部の目に触れぬようにして、それがまかり通ってしまう世界。10年!

わたしは何も言えませんでした。宇未の抱えている後悔や絶望は、わたしにも身に覚えのあるものだったからです。父と面会しても、一度もわたしの存在を認識してくれたことはありませんでしたが、それでも面会できただけでも幸運だったのだと、今はよく思います。

12時58分、「面会受け付け番号80番の方、窓口までお越し下さい」と放送が入りました。宇未がノートから顔をあげ「今、呼ばれたよね」と聞きました。「窓口まで来てくれっていったよね?」

宇未の疑問はもっともでした。これまでは、刑務官がわたしたちの所へ来て、面会ができない旨伝えていたのです。窓口まで呼ばれるのは、普段はないことでした。

もしかしてと思ったのでしょう。「待って」と声をかけているのに気づかず、宇未はいそいそと窓口へ向かいました。仕方ないので、わたしも荷物を持って、急いで窓口へ向かいました。そのわたしの耳に、

「出てきませんって、自分で出てこられるわけないですよね」

と宇未の声が聞こえ、窓口の中で若い刑務官が何か言っているのが聞こえました。

直後――。

「どうしてそんな嘘つくんですか!」

宇未の抗議の声が、待合室に響き渡りました。窓口を見ると、若い刑務官を横にどけ、年配の刑務官が前に出たところでした。

「面会に行くように言ったけど、本人が出てきません」
年配の刑務官が言います。

「精神科医が言っているんです。父は昏迷状態にあるって。外的刺激に反応できない昏迷状態にある人が、自分の意思で拒否なんて、できるわけないじゃないですか! 精神科医の先生が言っているんですよ。あなたたちはちゃんと診察しているんですか? 診断しているんですか?」
「拒否じゃなくて、部屋から出てこないんですよ」
「部屋からでてこないんですよね。拒否じゃないんですよね。さっき彼は拒否って言いましたよ」

宇未が、たたみかけるように言い、若い刑務官の方を見ました。年配の刑務官は宇未に対し、

「間違えました。すみません」
と謝罪しました。

若い刑務官は、宇未に対して「拒否です」と父が面会を拒否していると主張したのです。

父と面会ができていたころ、40回近く面会を重ねていた宇未は、父が意思表示など不可能な状態であることを、よく知っていました

「部屋から出てこない」

だけであれば、「出てこない」という事実状態を伝えているだけと受け取ることも可能です。しかし、「拒否」となると、父に意思表示をする能力があり、主体的に面会を拒んでいるということになります。

その明確な嘘に、宇未は耐えられなかったのでしょう。

――「麻原彰晃」として知られる父は逮捕されたあと、ずっと接見禁止がつけられ、ようやくわたしが父と会えたのは2004年9月14日のことでした。このときすでに、父は拘禁反応による重篤な昏迷状態にあったようです。

昏迷とは、父を診断した精神科医の先生によると、

「昏睡の前段階にある状態。昏睡や擬死反射と違って起きて動きはするけれど、注射をしたとしても反応はありません」
とのこと。

先生は、父に関して「松本被告人に関しては、会ってすぐ詐病ではないとわかりました」、「これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態におちいっている。そう診断」したとのことです。

そんな父でしたので、面会中、会話が成立したことは一度もありません。わたしたちが面会に来ていることに気づいた様子もなく、もちろん名前を呼んでもらえたこともありません。それどころか、意味のある単語の一つさえ、発することはできませんでした。

面会室には、刑務官に押される車椅子に乗せられて来ていました。記録が手元にある限りでは、わたしは父と少なくとも32回は面会していますが、常にオムツをつけられていました。ズボンに不自然なふくらみがあるので、一見してわかります。

父と面接した少なくとも6名の精神科医は、父に治療が必要だと診断しました。

2007年1月に父と面接をした日本弁護士連合会は2007年11月に、東京拘置所に対し

「被拘禁者A(父のこと)が人間として最低限の生活を自立して行うことができない状態にあると見ることができる。特に重視しなければならないのは、拘禁反応の症状のひとつである『昏迷』の結果として自らの安全を自分の意思で確保することができなくなっている」
「現段階において(拘置所が)可能な必要最小限の精神科的治療すら実施していない」

と、父に対する治療をするよう「勧告書」を出しました。

しかし現在に至るまで、東京拘置所が父に治療をしたという話は聞きません。東京拘置所は父が病気であることを認めておらず、病気だと認めていない「重篤な拘禁反応にあり昏迷状態」にある父に、治療を行う理由がないのでしょう。

わたしが父と最後に会えたのは、2008年4月のことです。東京拘置所は父の状態が外部に漏れるのを恐れたのか、家族や弁護人のみならず、外部の人間とは誰とも父を会わせなくなりました。宇未が行った家裁へのある申立において、調査を行うために東京拘置所に赴いた家庭裁判所の調査官でさえ、2013年、東京拘置所に面会を拒否されています。

最後に父を見てから、もう10年になろうとしています。今も父は、排泄物にまみれた部屋に放置され、治療も受けられずにいるのでしょう。人間として扱われていない父の病状は、あの筆舌に尽くしがたい状態から更に悪化していると思います。心配でなりません。

政治的思惑から自由である6人の精神科医の先生方の診断を見る限り、心神喪失の状態にある父に訴訟能力はありませんでした。これは客観的事実と言えるでしょう。

被告人に訴訟能力がない場合、裁判所は刑事訴訟法314条に基づき、公判停止手続を行う必要がありました。当時弁護人は医師の意見書と共に2度も公判手続停止の申し立てをしていたのですから、裁判所は、社会のバッシングを恐れ、「麻原には何をやっても許される」という態度で違憲・違法行為を行う前に、裁判所としての役割をきちんと果たすべきだったのです。

当時、ある精神科医の先生は、父に治療をすれば数ヶ月~半年で病気がよくなるとおっしゃっていました。なぜその数ヶ月の治療期間すら、裁判所には認められなかったのか。それが残念でなりません。

なお、先生は最近も、父は治療すれば半年ぐらいで病気がよくなるとおっしゃって下さっています。

父は現在も心神喪失の状態にあります。心神喪失の状態の人への死刑執行は、刑事訴訟法479条1項に反し違法です。

憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定しています。

では父は?

法律の定める手続を無視され、あるいは「詐病」のレッテルを貼られて、昏迷の状態にありながら治療さえ受けられない父は? 訴訟能力どころか、0歳の赤ん坊ほどの意思表示も、意思疎通もできなかった父は? それで死刑判決を受けた父は?

もちろん、適正手続など受けられておりません。父は今まで、いえ今も違憲・違法に扱われています。

真相解明こそが、一連のオウム事件の再発防止につながる道なのに、なぜ、父を治療し、きちんとした裁判を受けさせず、殺し急ごうとするのか。わたしには理解できません。もし、現在の昏迷状態にある父を国が殺すとするならば、違憲・違法行為であり、「死刑」ではなく何ら根拠のない殺人です。適正な手続きをしていただけるよう、強く求めます。


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編集部より:この記事は、著述家、カウンセラーの松本麗華氏の公式ブログ「お父さん分かりますか?」 2018年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナルブログでお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。