ビジネス心理学をご存知だろうか。よく知られているものに、アサーティブ、フレーミング、バーナム効果、コールドリーディングなどがある。心理学は「人問心理を解き明かすもの」だが、知っているだけでは役にたたない。大事な場面で、「使える」という実践的なレベルにまで高めておかないと、中途半端な知識で終わってしまう。
今回は、『弱みが強みに変わる逆転の心理学』(清流出版)を紹介したい。著者は、神岡真司さん、30万部ベストセラー『ヤバい心理学』が代表作。イラストや漫画は、森下えみこさんが担当している(記事画像参照)。書籍関連の実績が多いことから、出版社や著者に森下さんのフアンは多いが、本書ではその魅力を楽しむことができる。
「内向型」には強力な魅力がある
世間では、口下手だったり、弱気だったり、内向型の人は、人生で大損をするかのように思われている。おしゃべりで口のうまい人のほうが、口下手の人よりトクなのだろうか?強気な人は、弱気な人を押しまくるので、つねに有利な立場だろうか?外向型の人は、内向型の人より陽気でチャンスを得やすいのだろうか?検証してみたい。
「いろいろ想像してみると、他人と関わる場面では、弁が立ち、強気で、外向型の人のほうが、派手で目立つことだけはたしかでしょう。しかし、それだけのことにすぎないのです。コミュニケーションの方法は会話だけとは限りません。スピーチができたり、雑談がうまいと、外面的には『デキル人間』に見えるかも知れません。」(神岡さん)
「ところが、必ずしもそういう人たちが、世の中で成功しているとはいえません。口下手で、弱気で、内向型の人は世間から誤解されがちなだけです。むしろ口が達者で強気で外向型の人よりも、内向的であることのほうがはるかに大きな魅力となって強みを発揮できている という人も多いからです。」(同)
つまり、「弱み」は「強み」にもなり、「強み」も「弱み」になるといった反転性があることを理解しなければいけない。単なる概念にすぎないのである。
「口下手·内向型の人は、そのことをコンプレックスと思いがちです。コンプレックスは、他人との比較で、他人より劣っていると思えるため気になります。他人と比較するためにそうなるわけです。比較しないでいればよいのですが、人間はつねに比較して、勝手に他人よりも劣っているところを見つけて落ち込んでしまうのです。」(神岡さん)
「他人と比較して、つねに自分のほうが優れていると思い込む習性があれば、思い悩むことも少なくなるはずですが、ついつい自分の劣ったところと思える部分に意識を集中しがちなため、そうなります。『心のフレーム』を自らつくり出して『ダメだ』と勝手に思い込んでしまっているのです。それは気のせいかも知れません。」(同)
「いったん「自分はダメかも」と思うとだんだんその思いが潜在意識の奥底に沈んでいって、それが当たり前のように浸透して、日常の行動をも阻害するようになる。しかし、神岡さんは、口下手・内向型の人は「弱み」をかかえているどころか、神経が研ぎ澄まされているために観察力に優れ、リスクに慎重に対処できるとしている。
「内向型」には成功者が多い
実は、口下手のために弱気に見えてしまう「内向型」の人には、世界的に著名な成功者が目白押しだ。思考が内面に向かうので、学者や研究者に多いのもうなずける。
「アインシュタインは、7歳まで読み書きが不自由だったのは有名な話です。自然界の成り立ちや数学に興味を示しますが、大学に助手として残りたかったのに拒否されました。卒業後は、家庭教師やアルバイトでしのぎ、ようやく特許庁の下級審査技師の職を得てから、物理学の研究に取り組み名声につなげます。」(神岡さん)
「極端に『内向型』だったアインシュタインは、自分だけの殻に閉じこもり、相対性理論いう20世紀最大の発見ともいわれる偉業を成し遂げます。発明王エジソンは、自分の興味のあることについてしか関心がなかったため、知能が低いと小学校を退学させられたのは有名な話です。万有引カの法則を見出したニュートンも同じでした。」(同)
他にも、マイクロソフトの創業者のビル·ゲイツ、映画監督のスティーブンスピルバーグやジョージ·ルーカス、投資家のウォーレン·バフェット、米国の大統領だったリンカ–ンなども内向的だった。このように成功者には「内向型」が多いと、神岡さんは解説する。
内面には確固たる信念があり、自分の世界を極め、達成するというパワーは、並々ならぬものがあるといえそうだ。さて、筆者も1月に新しい本を上梓したので、この機会にご紹介しておきたい。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)
尾藤克之
コラムニスト