懸念を黙殺すべきではない
黒田日銀総裁の再任案が国会に提示されるとともに、交代する副総裁の一人に強硬なリフレ派(金融緩和論者)の学者が就任する案も示されました。金融政策が偏った方向に向かわないよう政治を、けん制すべき日銀は、ますます政府従属の道を歩んでいます。
5年前に、黒田氏が総裁になり、「2年で2%の物価上昇を実現する」と約束して、異次元金融緩和に踏み込んだ際、大胆すぎる実験だとして、そのリスクを指摘するメディアは一部でした。黒田再任を報じる17日の新聞を見ますと、様変わりに横一線です。
全国紙の全てが「いつまでの異次元緩和を継続するのは、副作用が多く危険。今後、どうするのか」と、一様に批判し、懸念を表明していました。政治、安全保障問題では、通常、政権擁護派と批判派の二派に割れます。それと大違いです。
社説欄の大半を割き指摘
主要紙は「長期登板はアベノミクスを支えた手腕による」(読売新聞)、「景気の回復と安定は実績といえる」(朝日新聞)といったように、成果を一応、評価はしています。その一方で、全紙が社説欄の大半を割いて、一斉に強い懸念、注文を突きつけています。異例のことです。官邸、日銀から一歩、外へでると、様相は一変します。
朝日新聞は「次の5年を国会で語れ」との見出しで、「緩和の実施で、日銀は450兆円もの国債を抱え込んでいる。利上げに転じる出口の局面で巨額の損失(日銀財務体質が悪化すること)が出る可能性がある」と、指摘しています。黒田総裁はこれまで「出口を語る段階ではない」の一点張りで、説明すら拒んできました。
毎日は「劇薬のような緩和政策の弊害は深刻化するばかり」、「借金依存の財政政策を続けるうえでも、日銀が大量に国債を買ってくれるのは、ありがたいと思っている」と、主張しています。日銀依存の財政状態はだれもが認めているのに、日銀は「市場に通貨供給する際の副次的効果」と、これまた一点張りです。
安倍派新聞のような産経も、「脱デフレを確実にすれば、出口戦略が焦点になる」、「脱デフレを金融政策だけで果たせるものではない」と、いいます。
読売の紙面では、安倍首相の金融、財政政策について、このところ辛口の論評が増えています。社説でも「異次元緩和に行き詰まり兆しが出ている」、「金融政策頼みの物価上昇は容易ではない」、「緩和の副作用はますます増幅する」、などなど。
政策委員会の構成に偏り
基本的な問題点は出尽くしているのですから、国会質疑で野党は日銀総裁と厳しく対決すべきです。副総裁にタカ派の若田部早大教授を起用するのは、「日銀に出口戦略を用意させないという政権の意思表示」と、解釈されています。若田部氏は、消費税引き上げの反対派、財政出動の推進派として評価されたとか。教条主義者なリフレ派ですね。学問的な実験の場に使ってはいけません。
日銀の政策事項を決める政策委員会の構成は、正副総裁3人、審議委員5人の計9人です。任期切れに伴う委員の異動で、総裁以下、全てが異次元緩和の継続派です。全体の構成に偏りもあるし、金融政策と密接な関係にある財政の専門家はゼロです。財務省出身の黒田氏は国際金融畑、さらに財務省では異端である点が首相に買われました。
金融と財政一体で泥沼にはまった状態から、どのように抜け出すのか。いびつな人事構成の政策委員会に期待するの無理。財務官僚は安倍政権人事権を握られ、期待できない。そうなると、マネー市場が波乱を起こし、日本の金融財政状況に判定を下す道しか残されていない。政策による調整より、市場による調整のほうが傷が大きくなります。
「まだその時期ではない」として、出口を遅らせ、財政再建を遅らせていけば、ますます出口の困難さは増し、財政再建も困難な作業となる。1強政権といわれているタイミングを生かさなければなりません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。