多くの人が勘違いする「韓国いちご問題」3つの誤解

黒坂 岳央

韓国イチゴの「雪香」(上)と「章姫」(下)=http://www.ilbe.com/より引用(編集部)

先日書いたカーリング女子の「韓国のいちごおいしい」発言の裏事情の記事に対して、私の元に多数の賛成・反対の意見を頂きました。また、ビジネス雑誌・プレジデントでこの問題について詳しく書かせて頂く機会があり、問題の大きさをひしひしと感じています。

私の元へ頂いたコメントを一つ一つ読ませてもらいましたが、やはり、みんな感じるところは同じですね。それは盗みを働く「ドロボウに対する怒り」です。

みんなの怒りの感情をよく理解できると共に、気になったことがあります。それはこの問題、間違った情報や噂がネット上を独り歩きしており、誤った認識をしている人がかなり多いということです。代表的なのは次のようなものです。

「日本政府は何も動いていない!この問題は対応を放置した日本政府の責任だ!」

「一般人では何もできない。政府が早くなんとかするべきだ」

…なるほど、確かに書いた人の気持ちは分からなくもありません。しかし、気持ちは分かりますが同時に正しい認識でもないと思います。

これらの誤解についてお話したいと思います。

誤解1. 日本政府は何もしていない。

「日本政府はなんとかしろ!弱腰外交の責任を取れ!」という声がネット上で多く見られます。しかし、これは誤りです。日本政府は決して何もしなかったわけではありません。

2000年初期、韓国で栽培されている約65%ものいちごが、日本産のいちご苗を無断で使用していました。国内で勝手に栽培するだけに留まらず、韓国は日本品種のいちごを日本へ輸出を始めたのです。この事実を確認した日本政府はいちごを輸出禁止にし、2008年に日本は韓国に対して年間30億ウォン(約3億4000万円)に上るロイヤリティの支払を要求しています。日本に輸出を差し止められたことで、韓国内では大量のいちご余りが起きたようです。

それまで好き勝手に日本の苗を元にいちごを栽培していた農家にとって、ロイヤリティの支払負担は重く感じたようです。韓国はロイヤリティの請求に対して「金額が高すぎる」と反発し、韓国は自国農家を保護するために国ぐるみで日本への対抗措置を考案します。それが「韓国産いちごの開発」というものです。彼らは「雪香(ソルヒャン)」という品種を誕生させて、まんまと逃げおおせてしまいました。

これは純日本いちごを栽培・販売すると日本にロイヤリティの支払をしないといけなくなるので、韓国産いちごを作り、それを販売するという方法です。ちなみにこの新品種は日本のいちご品種同士をかけ合わせて作ったもの、というから驚かされます。

「日本産いちご × 日本産いちご = 韓国産いちご」

ということになるのですからおかしな話ですよね?ちなみに雪香を開発したキム・テイルという農学博士は、「日本とのロイヤリティ戦争に打ち勝った英雄」とされているようです。

最終的には逃げられてしまったわけですが、日本政府は韓国の輸出を禁止にし、更にロイヤリティの支払いを要求するというアクションを取っています。決して「弱腰外交で何もしなかった」、ということは決してありません。

誤解2. 一般人は何も出来ないので、国がなんとかするべき問題だ

「これは政府間の問題だ!個人では何も出来ないので国がなんとかしろ!」という声が見られますが、私はそうは思えません。一人でも多くの人がこの問題をしっかりと正しく認識することが、今後の再発防止策への第一歩になると考えています。

私は今回のカーリング女子発言以前から、何度もフルーツ流出について記事を書いて警鐘を鳴らし続けてきました。ですが、今回の平昌オリンピックという、日本中の関心が集まっているタイミングだったこともあり、過去に書いてきた記事とは反応がケタ違いでした。圧倒的に多くの人がこの問題を知り、そして憤りを感じたのです。これだけ多くの人が問題を認識し、大きな反響が広がっているということは、逆を言えばそれだけこれまであまり知られていなかったという考え方も出来ますよね?

「問題とは問題があることを認識することがもっとも重要であり、問題の認識ができた時点で半分解消されているのと同義だ」という言葉があります。まさにこの言葉の通りではないでしょうか?日本の農業関係者が人生をかけて作り上げた農作物が他国の手に渡り、輸出で資金を稼いでいるのです。とてつもなく大きな問題ですよね?その問題についてまずは多くの人が知り、問題として認識することが重要なのです。「数は力なり」です。一人より100人、100人より1万人が声をあげれば大きな力になり、やがてはその数の力を持って問題に挑めば、相手も過去と同じことを簡単には出来ないようになるのではないでしょうか?

一般人は何も出来ないわけではありません。問題を認識することが再発防止への重要なステップになるのです。

誤解3. 日本のフルーツは海外に受け入れられない。

「日本のフルーツは質が良くても海外に受け入れられていない。韓国に奪われても影響はないのでは?」というコメントを頂きました。このコメントに対して、私は違うと考えています。マーケティングという販売努力をすることで、日本のフルーツは海外に受け入れられると考えています。

2016年の韓国いちご輸出額は過去最高の約36億5000万円にのぼり、これは日本いちご輸出額約11億円の3倍以上です。主な輸出先は香港(日本からの輸出先1位 ※財務省貿易統計より)やシンガポール(3位)となっており、日本の主な輸出先と競合しています。また、タイやベトナムでは韓国いちごは”プレミアムフルーツ”として人気を博しているようです。本来は日本が販売できた機会を韓国に奪われ、彼らは日本生まれのいちごを使ってせっせと外貨を稼いでいるのです。

なんとも腹立たしい限りですが、韓国がいちごを他国に売りまくっているのは彼らのマーケティング努力をした結果なわけで、日本も努力することで販路が開けると考えています。事実、近年における日本のフルーツ輸出の伸びは目覚ましいものがあることをデータが示しているのです。

※グラフは財務省貿易統計から筆者が作成

※過去に書いたなぜ近年になって台湾と香港に日本のフルーツがウケているのか?により詳しく解説していますので、そちらもぜひご覧ください。

韓国にいちごを奪われるも、日本いちごは海外輸出を伸ばしています。しかし、韓国はそれ以上に輸出を伸ばしているのですから、この部分に販売機会のロスがあるのです。昨年、農林水産省は「韓国にいちごが流出したことで、日本の輸出機会が奪われている」とその被害総額を220億円と試算しています。この試算した数字の正確性は別にして、何も手を打たなければアジアにおけるいちごブランドは韓国の手に渡り、いよいよ日本のフルーツの輸出機会が奪われてしまうでしょう。…それに知っていましたか?日本に入ってきているいちごの輸入量第3位は韓国なのですよ…(財務省統計2016年データより)。日本のいちごを奪い、盗難品種同士を掛け合わせて韓国産いちごとして輸出をすることで、今も日本から稼ぎを得ているのです。

「どうせ日本のフルーツは海外に受け入れられない」と諦めている場合ではありません。今こそマーケティングで韓国に奪われた市場を取り戻し、日本のフルーツの素晴らしさを世界に伝える努力を続けるべきなのです。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。