企業の多角化とは何ぞや

事業一般の本質として、事業目的があり、その目的実現のための自覚的なリスクテイクがある。この本源的リスクテイクにおいて、技術環境の変化等によりリスクが顕在化すれば、企業は終りである。石炭、タイプライターなどなど、歴史的に消え去った産業はいくらもある。

さて、この本源的な経営リスクに対して多角化で対抗しようとすることは、一方で、自然な経営行動だが、他方では、本源的リスクテイクからの逸脱という側面もある。企業経営において、多角化とは何か、多角化は否定されるべきか、肯定されるべきか、これは古くからある古典的難問である。

経営理念的に、あるいは企業文化風土的に、オフィス事務の合理化という事業領域に企業の本源的な居住地を定めたうえで、技術環境の変化に伴って、タイプライターから情報サービスへと進化していく、これは、多角化とはいわないであろう。むしろ、徹底した本源的リスクテイクへのこだわりだとみられる。

同様に、多くの企業は、食べる、住む、着る、移動するなどの人間生活の特定機能に居住地を定めて、それに徹底的にこだわることで、技術や生活の環境変化に対応した新製品開発を進め、また、特定の技術や素材に徹底的にこだわることで、その応用範囲を拡大するなどして、成長を続けてきたのである。

自分の自然な居住地を定めて、そこにおける本源的リスクテイクに経営資源を集中することで、リスクテイクの能力を向上させて、逆に、本源的リスクを克服していく、これこそ、経営の王道である。それに対して、本源的リスクを非本源的分野への多角化によって分散して克服しようとすることは、現在では、コーポレートガバナンス上、高く評価されない経営手法である。

もっとも、どこまでが本源的事業の延長であり、どこからが分散による多角化であるかは、少しも明瞭ではなく、故に、識別は難問だということである。しかし、そうはいっても、その難問を常に自覚的に問い続けることで、本源的リスクテイクからの経営の逸脱を阻止していかなくてはならないのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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