受動喫煙防止条例案のポイントを都ファ都議が解説 --- 岡本 光樹

寄稿

都知事公式Facebookより

4月20日に小池百合子都知事から、「東京都受動喫煙防止条例(仮称)」の骨子案が発表されました。

参照URL①小池知事「知事の部屋」/記者会見(2018年4月20日)

参照URL②東京都受動喫煙防止条例(仮称)骨子案について

長年、受動喫煙問題に関わってきた弁護士として、また現在、「都民ファーストの会」の都議会議員として、その内容を紹介するとともに、今後の論点を考察します。特に、国の健康増進法の改正案(3月9日閣議決定)と比較しつつ、論点を整理します。

「人」に着目した基本指針

今回の都の案の最も重要なポイントは、「都独自の新しいルール」として「人」に着目した対策を基本指針に据えて、「働く人」と「子ども」を受動喫煙から守るとした点です。

これまで日本の受動喫煙の議論では、顧客や店の経営の観点ばかりが議論され、働く人を守るという視点が置き去りにされてきました。海外に比べて、日本は従業員を守る視点が弱く、私も弁護士の立場から長年にわたり、その観点の重要性を説いてきました。

今回、小池都知事が、この点を大きく打ち出したことは、画期的な英断であると考えます。

東京都資料より)

規制対象となる飲食店 面積か従業員の有無か

国の法案では、既存の飲食店のうち資本金5000万円以下で客席面積100㎡以下は、規制対象外とされ、約5.5割程度と推計されています。この数字は、既に受動喫煙対策を実施している店舗を除いた数字なので、法的な例外扱いは、約8割にも上ります。要するに、既存飲食店では主に客席面積100㎡超の大型店や大企業のチェーン店等のみが規制対象となり、法律上の原則と例外が逆転します。これでは、厚労省が掲げる「望まない受動喫煙をなくす」には、あまりに不十分と言わざるを得ません。 国の法案では、新規店舗については、資本金や面積に関わらず規制対象となりますが、2020年の東京オリパラ時点では、分煙されていない喫煙店が依然大きな割合を占めると予想されます。 100㎡という面積で区切ることや既存店舗と新規店舗で法的に大きな差を設けることについては、公平性の観点からの疑問もあります。

これに対して、都の案は、店の面積や既存・新規といった区切り方ではなく、従業員の有無で区別しています。従業員がいる店が規制対象となり、約84%と推計されています。 法的・理論的な合理性があり、かつ、周知面においても分かり易いものと言えます。

東京都の前掲URLより

但し、国の法案でも、都の条例骨子案でも、シガーバーやたばこの販売店等は、別類型として例外となります。

飲食店に対する規制内容と補助金

上記規制対象の飲食店は、原則屋内禁煙(喫煙専用室内のみで喫煙可)となります。紙巻タバコに対する規制方法は、国も都も概ね同様です。

厚労省前記URLより

たばこ規制枠組条約のガイドラインやWHO(世界保健機関)は、喫煙専用室の設置を推奨しておらず、屋内は全面禁煙とすべきとしています(海外の多くの国で、喫煙者は店舗外で喫煙するのが当たり前になっています。)ので、この点は、国の法案も都の案も世界の潮流にそぐわないものとなっています。 そのため、日本は、WHOの屋内禁煙義務の法律に関する分類で、現在の最低ランク(4番目のランク。125ヵ国に劣後)から、法改正しても1ランク上がるだけ(3番目のランク。78ヵ国に劣後)となります。 他方、厚生労働省は、「飲食店の営業の自由」への配慮として、喫煙専用室の設置を認めるという考え方をとっています(昨年3月1日発表)。

喫煙専用室の設置は、煙の漏れの問題や、喫煙者が濃厚な残留タバコ煙を身につけて他者に苦痛を及ぼすといった問題(サードハンドスモーク)があり、世界の潮流にそぐわないもので、将来的には見直しが必要と考えますが、現時点における日本の法改正・条例制定としては、喫煙専用室の設置を許容することは、やむを得ないのではないかと考えます。

今後、喫煙専用室から煙が漏れないことをどのような方策で担保していくのか、許可制なのか、届出制なのかといった制度設計とも関連して、条例制定に際して検討が必要と考えます。

また、喫煙専用室の設置の公費補助についても、今後、議論が予想されます。

①上記のとおり、条約やWHOが推奨していないものに公費(都民の税金)からの補助金を出すべきでないという考え方(筆者は従前この立場を主張してきました。)と、

②飲食施設等に対する規制と同時に積極的に喫煙室整備の支援をすべきという考え方と、両方の考え方があり得ます。国(厚労省)も都(産業労働局)も、これまで喫煙室設置に助成金・補助金を出してきました。

今回、小池都知事は、条例に伴って後者②の考え方を示しました。

このほか、禁煙治療や屋内禁煙化のための改装費等への補助を検討すべきです。

加熱式タバコについて

都の条例骨子案のポイントでは、加熱式タバコは「規制対象。ただし、健康影響が明らかになるまでの間、行政処分や罰則は適用しない。」としています。

他方、国の法案では、紙巻タバコの「喫煙専用室」で飲食等は認められないのに対して、加熱式タバコの喫煙室では飲食等も可としており、加熱式タバコは中間的な規制としています(前掲の図を参照)。

加熱式タバコについては、国の方が厳しい規制となる可能性があります。

国の方が、加熱式タバコについて科学的知見を有していると思われますので、この点は国の立法に期待します。

都の条例と国の法律の双方が制定されると、都民は、両方を守る必要がありますので、より厳しい方の規制を遵守すべきことになります。

子ども・未成年者の保護

国の法案では、飲食店や事業所等の管理権原者等は、20歳未満の者(従業員を含む)を喫煙室に立入らせてはならないとしていますが、指導や相談のみで、罰則がありません。

都の条例骨子案では、立ち入り禁止は明示されていますが、罰則の有無はまだ明らかになっていません。ぜひ罰則導入も検討すべきと考えます。

またこのほかに、都の案では、健康影響を受けやすい子どもなど20歳未満の人を守るため、幼稚園・保育所・小中高校の敷地内禁煙も打ち出しています。国の法案が、敷地内に喫煙場所の設置を認めるとして、昨年の厚労省案から後退した点を、都が補う内容となっています。

都福祉保健局によれば、屋外については罰則を設けず、努力義務とのことですが、国の法案よりも、一歩進んだ内容といえます。

東京都前出URLより

都では、筆者が中心となり、都民ファーストの会・都議会公明党・都議会民進党の共同の議員提案で、昨年10月に「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」を制定し、今月(4月)1日に施行となりました。 この条例は、「都民は、いかなる場所においても、子どもに受動喫煙をさせることのないよう努めなければならない。」と定め、特に、家庭内、自動車内、公園、保育所・学校・小児医療施設周辺の路上等について、子ども(18歳未満)の受動喫煙防止を図る内容となっています。罰則はなく、喫煙者及び保護者に努力義務を課すものですが、飲食店等の施設管理者については、都知事提案の罰則付条例を見越して、対象としていませんでした。 この度の都知事提案の条例と、我々の議員提案条例は、双方が相俟って補い合って、子ども及び未成年者の受動喫煙保護を一層推進していくものと考えます。

東京都福祉保健局サイトより

罰則及び施行時期

国の法案における罰則は、行政罰「過料」で、最大50万円以下で、地方裁判所の裁判手続きにより決定されます。 都条例における罰則も、行政罰「過料」ですが、地方自治法により、上限金額や手続が異なっており、5万円以下の過料、裁判手続きを経ずに、行政機関が直接徴収することになります(実務的には保健所が担当すると考えられます)。 区の路上喫煙禁止条例において、区の職員が直接「過料」を徴収する制度が、先行事例として参考となります。 都も国も、罰則適用を含めた全面施行時期は、2020年4月1日を予定しています。 都では、6月の定例議会に条例が上程される予定です。 我々、都民ファーストの会は、「東京都受動喫煙防止条例(仮称)」について、さらに検討と議論を重ね、より良い条例の制定を目指して参ります。

岡本 光樹(おかもと こうき)東京都議会議員(国分寺市、国立市選出)、都民ファーストの会所属

東京都議会議員(都民ファーストの会副幹事長)、弁護士。1982年岡山県生まれ。東京大学法学部在学中の2004年に司法試験に合格。卒業後の2006年に弁護士登録。大手法律事務所勤務を経て、独立。2017年都議選で初当選。著書に『住環境トラブル解決実務マニュアル』(共著)。公式サイト