革製品ブランドのアイコンとして知られたケイト・スペード氏、そして料理界の異端児として長く看板番組を維持していたアンソニー・ボーデイン氏が、それぞれ自ら命を絶ってしまいました。スペード氏の享年は55歳、ボーデイン氏は61歳。「40 is the new 30=40歳は新たな30歳」との言葉が浸透した現代でみれば、あまりにも早い死です。
和食を愛したボーデイン氏、元妻と一人娘とNYの焼肉の名店Takashiで舌鼓を打っていたのに・・合掌。
(出所:ottaviabourdain via Instagram)
2人の著名人の死は、米国の「今そこにある危機」を浮かび上がらせました。プリンストン大学のレポートで一躍注目を集めた白人の死亡率の上昇、そして自殺者の増加です。
全米での自殺者は、2016年には4.5万人を超えました。1999年との比較では、30%増に及びます。自殺者は10万人中で13.42人と、1999年の統計開始以来で最悪を更新。特に中高年で高水準となっています。
(作成:My Big Apple NY)
数字を押し上げているのはズバリ、白人です。特に白人男性の自殺率上昇が著しく、2016年に45〜64歳で10万人中33.24人と、白人女性の11.62人、全米の17.56人を軽く上回ります。65歳以上ではその傾向が極めて著しく、白人男性が34.37人に対し白人女性は5.79人、全米では16.66人にとどまっていました。
(作成:My Big Apple NY)
中高年だけでは、ありません。最近では15~24歳を含め若い世代でも自殺者が増加しつつあります。自殺と言えば、メンタルヘルス。保険福祉省の推計によれば、米国で過去1年間に何らかの精神疾患の症状が現れた18歳以上の成人は2016年に4,470万人、成人全体の18.3%を占めました。年齢別では18~25歳で上昇が顕著となっており、その背景としてピッツバーグ大学の研究は、ソーシャルネットワーク(SNS)の使用時間の長さを指摘します。SNSに投稿された他者の充実した生活と自らを比較することが、自信喪失につながるからなんですね。スタンフォード大学のブログは、表面的に平静を装いつつ心理面で他者に遅れをとらぬよう苦悶するエリート学生が増加中と指摘、楽々と泳いでいそうなアヒルが水面下で必死に足を動かす状態にちなみ”アヒル症候群”と命名していたものです。
(作成:My Big Apple NY)
米国の成長率は2018年に3%近くを達成する見通しながら、オピオイドやメンタルヘルスと共に自殺は白人の中高年層から若い層まで蝕みつつあります。処方箋は、一体どこにあるのか。解決の糸口がつかめないまま、米国は中間選挙を迎えます。
(カバー写真:Giuseppe Milo/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年6月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。