ホワイトハウスのサラ・サンダース大統領報道官は5日、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の米朝首脳会談が12日、シンガポールのセントーサ島のカペラホテルで開催されると発表した。
セントーサ島(Sentosa)はシンガポールの高級リゾート地として有名で、世界から超リッチ族が利用する“この世のパラダイス”だが、島の歴史には暗い記憶が付きまとってきた。1972年までセントーサ島は「Pulau Belakang Mati 島」と呼ばれていた。その意味はズバリ「死の島」だ。シンガポール政府が改名を決め、現在の呼称に変更、シンガポールが誇るバケーションのパラダイスの島に変身されていったという。
「死の島」という島名がどこから由来するのかには諸説があるという。①連続殺人が起きた、②海賊や密輸グループの戦略的拠点として利用された、③19世紀中、疫病が広がり、全ての島民が犠牲となった、④島の大地は不妊をもたらした、等々の説がある。
第2次世界大戦時に、旧日本軍が1942年、英国から奪取したシンガポールを占領し、島は英国とオーストラリア兵士の捕虜収容所として利用された。英BBCやガーディアン紙によると、島には約400人の兵士たちが収容されていたという。また、シンガポールに住んでいた中国人がその反日言動を理由に拘束され、島に送られ、虐殺されたという。
先述したように、1970年代に入ると島の暗い歴史を閉じ、超リッチ層を狙った保養地として生まれ変わっていったわけだ。島にはハイカラな住宅、湾には高級ヨットが溢れている。米朝首脳会談の会議場となるカペラホテルは112の部屋数を有し、ガイドブックによると、それぞれの部屋には新旧の嗜好が巧みに織り込まれている。警備上も一番いい位置にあるという。ホテルは英国マンチェスター生まれの建築家ノーマン・フォスター氏によって建てられた。歌手のマドンナやレディー・ガガも宿泊したそうだ。
史上初の米朝首脳会談の開催地は決まった。昔「死の島」と呼ばれたセントーサ島は現在は東南アジア超一流のリゾート地に生まれ変わった。トランプ氏と金正恩氏は島周辺の美しい風景を堪能しながら北の非核化問題をトコトンを話し合ってほしい。舞台は整った。
と、ここまで書いてハッと気が付いた。そして少し心配になってきた。米朝首脳会談のテーマは朝鮮半島の行方を左右する「北の非核化」だ。トランプ氏は「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)を北側に要求しなければならない立場だ。「段階的な非核化」を主張する金正恩氏を説得しなければならない。セントーサ島の風景に心を捉われている余裕など本来ない。トランプ氏はテーマに集中できるだろうかと心配になってきた。セントーサ島の紹介を読むと、ゴルフ場もある。セントーサ島にはトランプ氏の心を奪う誘惑が少なくないのだ。金正恩氏はセントーサ島のリゾート地を目の前にし、金剛山観光の開発に意欲を燃やすかもしれないが……。
いずれにしても、史上初の米朝首脳会談が北の非核化を通じて朝鮮半島に平和をもたらす歴史的な会議となることを期待したい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。