カナダのトルドー首相は20日、同国上院でマリファナ(乾燥大麻)の小規模生産、使用を認める法案が可決されたことを受け、10月17日を期し同法案を施行すると明らかにした。カナダのメディアによれば、同首相は、「可決後、8週間から12週間後に施行できるが、地方で準備に時間がかかるという声があるので施行期日を少し遅らせた」と説明している。
カナダ上院は19日、マリファナの使用と生産を合法化する法案を賛成52、反対29、棄権2で可決した。大麻の解禁は国レベルとしては主要先進国会談(G7)では初めて。南米のウルグアイで初めて解禁され、米国では9州と首都ワシントンで既に解禁されている。トルドー首相は2015年の選挙でマリファナの合法化を公約としてきた経緯がある。
マリファナの合法化の背後には、①マリファナがソフト・ドラックであり、酒類と同様で人間に大きな影響はない、②禁止することで、マリファナを売買する犯罪グループが暴利を儲ける一方、マリファナを買うために犯罪に走る人々が増える、といった理由が挙げられている。
①に対し、ウィ―ンに事務局を置く国際麻薬統制委員会(INCB)は「麻薬をソフト・ドラックとハード・ドラックに分類すること自体が間違いで、大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)、例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)が含まれている」と指摘し、大麻の自由化は危険だと強調している。INCBは毎年春、前年の年次報告書を発表するが、オランダなど大麻の自由化を進めている加盟国に対して、「若い世代に間違ったシグナルを送り、麻薬の拡大を助長させる危険性がある」と警告を発してきた(「カナビス(大麻)の合法化は危険だ!」2018年2月13日参考)。
問題は②だろう。マリファナを合法化すれば、それを売買し、暴利を儲けてきた犯罪グループが減少するというのだ。しかし、犯罪グループは通常、マリファナだけを扱っているのではなく、他の覚せい剤の密売にも関わっている。マリファナの合法化は他のハードな麻薬への誘い口になり、麻薬業者を更に潤わせる結果ともなるだけではないか。
実際、覚せい剤の密売件数は増加している。マリファナを消費してきた人々が麻薬売買業者から購入しなくても良くなるから、その結果、犯罪件数が減少するという期待は非現実的だ。麻薬の摂取が常習化し、他のハードな麻薬への誘惑に抵抗できなくなるケースの方が現実的であり、より深刻なことではないか。
すなわち、①も②もマリファナ合法化の理由とはならないのだ。むしろ、マリファナの合法化は他の麻薬摂取への道を開くと共に、健康を一層悪化させる危険性を回避できなくなる。
著名な人物や政治家が「若い時、数回、マリファナを吸ったことがある」と自慢話のように語り、それがメディアに流れることがある。そんな証は「若い時代の……」といった類の話では済まない。若い世代に間違ったアドバイスをすることになる。トルドー首相も「自分は5、6回、マリファナを吸ったことがある」と述べている。危険な証だ。
「ドイツ刑事協会」(BDK)のアンドレ・シュルツ議長は大衆紙ビルトとのインタビューで、「大麻の禁止は歴史的にみても無理があり、知性的にも目的にも合致していない。人類の歴史で麻薬が摂取されなかった時代はなかった」と述べ、大麻の完全自由化を支持する発言をし、大きな話題を呼んだことがある。大麻を禁止し続ければ、刑務所は大麻消費で拘束された人々で溢れる。大麻の解禁は刑務所を解放するために必要悪だという主張だ。賛成はできないが、現場の声であり、最も現実的な大麻解禁支持説だろう。
繰り返すが、「禁止」すれば、不法な密売業者を喜ばせ、「解禁」すれば、密売業者にダメージを与え、最終的には犯罪も減少する、という一連の偽りの論理を再考する必要があるだろう。もちろん、麻薬の医療目的の使用は別問題だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。