仮想通貨は脱税に使えるのか?

有地 浩

仮想通貨取引を行う多くの人たちにとって、税金の問題は重大な関心事項である。今年5月に国税庁は、仮想通貨取引を含めた収入が1億円以上の人が331人いたと発表し、「おおむね適正な申告がなされたのではないか」とコメントした。

しかし、仮想通貨の匿名性や非中央集権的なブロックチェーンシステムといった特性からすれば、税務署が仮想通貨取引を完全に把握することは容易ではない。おそらくまだ隠れた仮想通貨の「億り人」がかなりいるのではないだろうか。

金融庁が仮想通貨交換業者に顧客の本人確認を厳しく求めるようになったため、日本の交換所を使った取引は、税務署が交換業者に資料の提供を求めれば十分に把握が可能となった。しかし、税務署の目を逃れようとする者は、規制がゆるい海外の交換所を使うだろうし、ひとつの交換所のサーバーに取引を集中させない分散型の交換所を使ったり、相手が何者であるか確かめにくいため詐欺のリスクは高いが、個人間で相対の取引をしようと思えばできる。

また、仮想通貨にはCRSの適用がまだない。CRSというのは、外国の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために、OECD(経済協力開発機構)の場で日本を含む国々が合意したルールで、約100か国がこれに参加表明をしているものだ。参加各国に所在する金融機関は非居住者の金融口座の情報をそれぞれの国の税務当局に報告し、各国の税務当局はその情報をお互いに交換する仕組みである。この報告義務の対象に預金や株式等が入っているが、仮想通貨はまだ入っていないため、海外の仮想通貨交換所に日本人が開設した口座の情報は、自動的には日本の税務署に届かない状況となっている。

もちろん、こうした中で日本の税務当局もただ手をこまねいているだけではない。仮想通貨に限った話ではないが、5000万円を超える国外財産を有する場合には国外財産調書の提出を義務付けているほか、総所得金額が2000万円超で財産の合計が3億円以上または国外転出特例財産の合計が1億円以上の人からは財産債務調書の提出を求めて、富裕層納税者の資産状況の把握を進めている(ただし、仮想通貨はまだ国外転出特例財産に含められておらず、仮想通貨を含めた財産が3億円未満だと財産債務調書を提出しなくてよいケースが出てくる可能性はある。)。

もっとも、脱税を目論む者はこうした調書を税務署に出さないか、出しても仮想通貨取引については記載しないことも考えられる。

このように仮想通貨取引を巡っては、税務署と脱税者との知恵比べないしイタチごっこが始まっているのであるが、現状では税務署と脱税者の攻防は、やはり税務署の方に分があると私には思える。

なぜならば、仮想通貨による決済がまだ普及していない現在、仮に仮想通貨長者となった脱税者が、稼いだお金でモノやサービスを購入しようとしたら、必ず仮想通貨を円やドルなどの法定通貨に交換する必要が生じるからだ。ネット上では海外のデビットカードを使う方法や、PayPal口座を通じる方法など、日本人が海外に持っている仮想通貨を法定通貨に戻すための様々な裏技が紹介されているが、いずれにしても、仮想通貨から法定通貨への変わり目で、税務署に捕捉される可能性は高い。とくに金額が多い場合は目立つであろう。

このように、税務当局はあらゆる方策で取り締まりをする。仮想通貨長者で脱税を考えている人は大きなリスクを抱えることを肝に命じたほうがよいだろう。

財務省時代、税務当局の執念を見聞きしてきた私などは、仮に自分が「億り人」になったとしても、とても脱税する気にはなれないのだが……。