中国の仮想通貨撲滅策は本当に成功したのか?

Vip Crypto Signals/flickr:編集部

昨年9月中国政府は、仮想通貨によるICO(新規仮想通貨公開)を全面的に禁止した後、10月には仮想通貨取引所も閉鎖した。今年1月には中国人による本土から海外の取引所へのアクセスの遮断を開始し、検索エンジン等への仮想通貨の広告の掲載も禁止した。

これらの措置の影響もあって、ビットコインをはじめとする世界の仮想通貨の相場は今年に入って急落し、かつては仮想通貨取引の中心的プレーヤーであった中国人の仮想通貨取引は終わったと思われている。これを確認するように、今年7月初めに中国政府は仮想通貨取引に占める人民元建て取引のシェアが1%を割ったことを公表し、仮想通貨撲滅のいわば勝利宣言をした。

もっとも、中国でも仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーン技術は、経済に新しい飛躍をもたらすものとして、熱心に研究開発を進めようとしている。今年5月には習近平国家主席がブロックチェーン技術を、新世代の技術として支持することを表明している。確かにブロックチェーン技術は金融取引をはじめ、経済活動の効率化、不正や改ざんの防止等、メリットは大きい。しかし中国が今目指しているのは、仮想通貨のコアの価値である「自由」を欠いた、いわば抜け殻の技術である。非中央集権的な「自由」こそがブロックチェーンのよいところなのである。

そもそも仮想通貨取引を禁止する国々は、厳しい金融統制を行ったり、資本の国外流出に敏感な国が多い。中国も最近は経済成長の鈍化、累積する国内債務問題、アメリカとの貿易戦争で経済の先行きが不透明となっており、人民元の相場も下がってきている。こうした中で、海外への資本流出が様々な形で生じている。仮想通貨を通じた資本流出も、その一つとなっていることが、中国政府が仮想通貨を目の敵にする真の理由である。

ただし、いかに強権的な中国政府でも仮想通貨の息の根を止めることは簡単ではない。昨年、政府が中国国内の取引所を閉鎖した際は、バイナンスをはじめ中国の主要な取引所は、いち早く海外に本拠を移した。また、個人間の大口の仮想通貨取引をOCT取引(取引所を通さない取引)でマッチングする市場も海外に出現した。そして中国本土の人々は、これらの海外の取引所を使って仮想通貨の売買を行ったのである。

こうした海外の取引所へアクセスするために中国本土の人々は、VPN(仮想プライベートネットワーク)のアプリを使って、中国国内からの取引であっても、まるで海外のパソコンやスマホから海外の取引所と取引を行ったように見せた。

これを察知した中国政府は、前述のように中国本土の人々が海外の仮想通貨のサイトにアクセスできなくするように、国内のVPN事業者をつぶし、さらには海外のVPN事業者に対してもインターネットの万里の長城を巡らせて中国国内からアクセスできないようにしている。

しかし、まだつぶされていないVPNの穴はあるようだし、より単純に、海外にいる家族、親戚、友人に仮想通貨のアカウントを開いてもらい、そこに自分のお金を何らかの形で送金するルートも依然存在しているようだ。

中国政府が躍起になって仮想通貨を叩いた結果、たしかに中国本土における仮想通貨の取引量はかなり減ったものと思われるが、中国政府が考えているよりはまだまだ取引は行われているのではないだろうか。抜け道は依然としてあるし、IT技術の進歩とともに、これからも新たな抜け道ができるだろう。

そして、中国経済に何か異変が起こると、この抜け道を通って大量の資金が海外に出てゆくことになる。
仮想通貨の「自由」はなかなか死にそうで死なない。