ベネズエラの若者5人がアルゼンチンへ8000キロを歩いた理由


ベネズエラで物不足が深刻になり新聞を発行する紙も不足するという事態になってから印刷の必要がない電子紙が報道メディアに多く登場している。その中でも幅広く読者から支持されているひとつが『lapadilla』である。

同紙が8月14日付でアルゼンチンの代表紙のひとつ『La Nación』がベネズエラから8000キロ先のアルゼンチンに移民しようとしている若者5人のことを取材した記事を紹介している。22歳から24歳の若者だ。それに1歳の赤ん坊を手押し車に乗せての移動である。

アルゼンチンに向かう理由はリーダーのジョンオリバー・レオンのいとこが既に現地で生活していて、彼ら5人に仕事が見つかる可能性はあるし、受け入れも良いと言ってくれたからだという。仕事があること、そして彼らを容易に受け入れてくれる環境にあるいうこと。この二つのことを頼りに彼らは8000キロの旅を計画したのである。

彼らは先ずコロンビアを経由してペルーからチリそしてアルゼンチンに向かうルートを選んだ。移動は歩行とヒッチハイクだ。その途中、仕事が見つかれば働いて収入を得る。5年前から急激に危機状態になったベネズエラにいた彼ら5人も多くの市民と同様にお金も食料もない状態にあったという。リーダーのジョンオリバーが「今のベネズエラでは卵付きのご飯を口にできるのは王様だ」と同紙取材記者に語って食料不足の深刻さを指摘したそうだ

彼らが向かうアルゼンチンでのベネズエラ出身者は2014年の2636人から翌年には5798人となり、その数は毎年増加して現在31167人となっているという。この数はパラグアイ、ボリビアからの入国者に次ぐ3番目の移民の多さとなっているそうだ。

彼らはアルゼンチンに入国してから仕事を探さねばらないが、既に同国で就職先が決まっている人物もいる。ラファエル・ディアス(53)だ。彼は東京でバイオエレクトロニクスを修学したという実績が評価されて、ベネズエラではもう彼の仕事は見つからないと判断してアルゼンチンのロサリオ市で職場が見つかったそうだ。

今年のアルゼンチンのインフレは30%以上と予測され、企業も従業員の解雇が目立つようになっている。移民者にとっては職場が容易に見つかる国ではなくなりつつある。

しかし、深刻な経済危機に見舞われているベネズエラに比べれば食料も医薬品もあるという具合で物が欠乏している状態ではない。国連人道問題事務所(OCHA)によると、ベネズエラでは医薬品不足からエイズHIV感染者1万人が医薬品の不足で死の危険にさらされているという。

1999年に陸軍中佐のウーゴ・チャベスがクーデターを起こすまで誰が今の危機的状態にあるベネズエラを想像したであろうか。

この様な未来の無いベネズエラに見切りをつけて多くの市民が他国に移住しているのである。外国への移住者の8割は2016年からの出国者だという。

2018年6月OCHAがまとめた報告によると、これまで凡そ230万人が国外に出たそうだ。これは飽くまで統計であって、この調査の対象から漏れた移住者も多くいるであろう。調査方法の違いから、国外に出た者は<300万から400万>という推計もあるそうだ。因みに、ベネズエラの人口は3150万人(2016年)となっている。

ベネズエラから外国に移住するのに大半がコロンビアを経由している。またブラジルに入国する場合はその大半がそのままブラジルに留まる場合である。コロンビア経由の場合はそこに滞留する者から、そこを起点に北はカナダ(2017年の移民者数18608)から米国(290224)、メキシコ(32582)、コスタリカ(8892)、パナマ(36365)、エクアドル(39519)、ペルー(26239)、チリ(119052)、アルゼンチン(57127)、ウルグアイ(6033)を移住先と決めて移動するのである。

また、ヨーロッパではスペイン(208333)、ポルトガル(24603)、イタリア(49831)の3か国を移動先に選らんでいる。尚、この移民者数も調査手段によって異なった結果が出ているのは読者は了承戴きたい。しかし、この統計によって、ベネズエラ人の国外への「脱出」の規模を把握するには参考になるはずである。

スペインに移住したベネズエラ人の場合、ベネズエラの国から貰うべき年金が全く貰えないということが問題としてメディアで取り上げられたことがある。その数は9000人だという。

マドゥロ大統領を筆頭に政権を交代させて民主政治の構築が必要なのであるが、その道のりはまだ長そうである。