ウィーンのメトロ新聞「ホイテ」に時たま面白い独自記事が掲載される。ウィーンに住む女性が先日、市の交通運輸局から一通の手紙をもらった。そこには「あなたの車の番号を今後使用してはならない」という内容が書かれていた。女性の自動車ナンバー・プレートは「W・・18」だ。問題はその「18」がアドルフ・ヒトラーを意味するからだという。
ドイツ語のアルファベット順でアドルフの「A」は最初のアルファベットであり、ヒトラーの「H」は8番目だ。すなわち、「18」はアドルフ・ヒトラーを意味するわけだ。通称ナチ・コード(Nazi Code)という。
オーストリアでは2015年、自動車ナンバー・プレートに関する法改正が行われ、今後はナチ・コードを利用できなくなった。これまで追加料金を払えば、自分の好きなナンバーをつけることができた。だから、会社の車に会社名をつけ「1」、「2」といった番号を付けるところもある。愛車に好きなナンバー付けて走りたいというカー・ファンが少ないから、独自の番号や名前をつけて走っている車も見かけるほどだ。
ホイテ紙によると、ナチ・コードとしては、「18」以外に、「28」(Blood & Honour)、「828」(Heil Blood & Honour)、「74」(Grossdeutschland、偉大なドイツ)、「88」と「H8」はHeil Hitlerを、「444」はDeutschland den Deutschen、ドイツはドイツ人のために、「198」(Sieg Heil) 、「1919」(SS、ナチス親衛隊)をそれぞれ意味する。
興味深いところでは、数字「420」だ。ヒトラーの誕生日1889年4月20日を意味する、といった具合だ。最近よく使用される「HJ」(Hitler Jugend)は「ヒトラー青年隊」だ。
蛇足だが、ヒトラーの誕生日「420」がナチ・コードとすれば、「216」のナンバー・プレートをつけた車が走る国がある。北朝鮮だ。金正恩朝鮮労働党委員長の父親・故金正日総書記の誕生日2月16日を意味する。「216」のナンバーを付けた車をみかければ、それは金正日、金ファミリーの専用車だということが直ぐに分かるわけだ。
独裁者も自分が乗る車には好きなナンバーや文字を付けたいと考えるものだ。生前、カー好きだった故金正日総書記だけではないだろう。世界の独裁者といわれる政治家は多分、愛車には好きなナンバー・プレートやイニシャルをつけて走っているはずだ。
もちろん、ナチ・コードは車のナンバー・プレートだけではない。Tシャツに「18」や「88」、「HJ」のイニシャルを付ければ、やはり問題となる。米家庭用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がドイツで販売していた洗剤容器に「88」、「18」の数字が印字されていたことから、即販売の中止に追い込まれたことがあった。
ドイツやヒトラーの出身国オーストリアでは公の場でナチスを礼賛すれば「民衆扇動罪」や「ナチ禁止法」に問われるが、ナチ・コードだけでは罪になることはない。ただし、「18」や「HJ」を付けたTシャツを着て街を歩けば、ネオナチと思われる危険性はある。
第2次世界大戦後70年以上が過ぎたが、ドイツやオーストリアでは今なお、過去の戦争犯罪を背負っている。ナチ・コードに対する社会の過敏な反応はそのことを端的に物語っているといえるだろう。
なお、数学者で人工知能の父と言われるアラン・チューリング (1912~54年)はナチ・コード(エニグマ、Enigma)を解読したことで有名だ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。