スペイン南部の浜辺に打ち上げられたマッコウクジラの腹から、約30kgのプラスチックごみが発見され4月に話題を呼んだ。翌月、NY市議会の民主党議員はストロー使用禁止条例を提案。同議員は「世界で1,300万トンのプラスチックが海に流されている」と熱弁を振るい、NY市長も支持を表明した。
ただし、NY市議会が使い捨てプラスチック製品規制の一環として同案を可決するには時間が掛かりそうだ。例えば、持ち帰り用発泡スチロール製容器の使用禁止法案は、ブルームバーグNY前市長の任期切れ間際の2013年12月、同市議会にて全会一致で可決した。しかし、 プラスチック容器製造業者ダート・コンテイナーと米国化学協議会などのロビー活動や提訴などにより、NY市議会は施行に漕ぎ着けるのに2019年1月1日まで待たねばならなかった。
今後、使い捨てプラスチック規制にストローを含む場合は、同製造業者に加えて、筋ジストロフィー患者など車椅子を利用する障害者などの反発は避けられない。既に障害者支援団体は、代替品につき紙製ストローは耐久性に欠け、金属製ストローは熱など安全性と衛生面で問題ありと反発している。また同団体は、今年7月からストロー規制を施行済みのワシントン州シアトル市の例を挙げ、障害者向けの規制免除は飲食店で徹底されていないと批判する。代替品である生分解性プラスチック製ストローの価格は普通のストローの2倍、紙製の場合は3倍である上、同市の条例は代替品設置を義務付けておらず、規制強化を逆手に取ってストローを提供しない飲食店が出てきたためだ。
なおシアトル市の使い捨てプラスチック製品規制は、レジ袋や発泡スチロール容器を対象に2009年1月に導入されてから、ストローやフォークなどの飲食用器具に拡大するのに9年掛かった。それでも、同市は障害者との間に禍根を残す。
ちなみに企業・民間の団体では、スターバックスやマクドナルドが使い捨てプラスチック規制を包括的に導入した。日本ではすかいらーく、大坂なおみ選手のスポンサーを務める日清食品も、規制に着手。スポーツ界では、メジャーリーグのシカゴ・ホワイトソックスも規制案を支持する。
(出所:Starbucks)
環境だけでなく、障害者への配慮が必要な問題を抱える使い捨てプラスチック規制導入は難しく、現時点で施行済みの地域は東西の海岸沿いでリベラル色の強い地域に偏っている。連邦政府レベルでの規制実施は、トランプ政権が続く限り日の目を見ないだろう。同政権は2017年3月に温暖化対策見直しの大統領令に署名し、同年6月にはパリ協定から離脱。今年6月にカナダで開催されたG7首脳会合でも、「海洋プラスチック憲章」に参加していない。なお、日本も不参加の立場を取った。
ただし、中国が 2017年7月、世界貿易機関(WTO)にプラスチックを含む一部の廃棄物の輸入停止を通告、同年末から実施し、米国内に様々な廃棄物が滞留するリスクが高まってきた。
プラスチックくず、輸出入動向。
米政権は中国に撤回を呼び掛けたが、通商摩擦が激化するなかで中国は応じず。米国は2016年にプラスチックごみ輸出の56%を中国、32%を香港に振り向けてきただけに、設備が整っていない第三国への輸出では不十分だ。米国は“不都合な真実”に対応すべく、自助努力を余儀なくされつつある。
(カバー写真:Chesapeake Bay Program/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年9月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。