2011年テレビが変わる

山口 巌

ラスベガスで開催された、CES関連の記事の幾つか読んで確信したのは、今年が間違い無く、テレビ革命元年に成るだろうと言う事である。テレビの視聴者は、重くて使い勝手の悪いリモコンを、さっさと押し入れに仕舞い込み、スマホや、今後競争激化で廉価に成るであろう、アブレットPCにお好みの「アプリ」をダウンロードして、従来無かったコンテンツサービス等を楽しむ事が当たり前のシーンと成る筈だ。

変化の第一は、EPGで番組表をチェックしたり、検索で調べるのでは無く、先ずお好みの「アプリ」を立ち上げると言う、行動の変化である。従って、「アプリ」業界は、活況を呈するのは無論であるが、知恵比べ、アイデア競争、スピード勝負の、大競争時代に突入する。

今一つの大きな変化は、こう言ったDeviceそのものが本来Social用のものであり、お好みの「アプリ」毎に様々なクラスターが誕生するであろう事から、番組の選択も従来のEPGから、キュレーションの占める割合大きく拡大する筈である。そして、番組観た後の意見交換も、大きな「お楽し」みに成るだろう。

判り易く言えば、テレビ端末はネットに繋がったフラットパネルと成り、視聴者は好みのDeviceにお気に入りの「アプリ」をダウンロードしてSocialで繋がった、友人や仲間と番組を楽しむ訳である。

此れに拠り、メーカーのマーケッテイングも、根底から変わらざるを得ない。従来は、大手広告代理店経由、広告の大量出稿を行い、一方、最大の商流である家電量販で有利なクロージングを行う為、リベートの積み増し等に主として注力してきた訳である。しかしながら、今後は良い「アプリ」を大量、且つスピーデイーにアグリゲート出来なければ勝負の土俵にすら上がれない。

「アプリ」のアグリゲートをどうするかは、今の所、2通りのモデルがあり、Samsungは両面作戦で臨んでいる。

前者は、基本アップルモデルで、先ずプラットフォームを立ち上げ、「アプリ」の集まるポータルを構築するのである。そして、此の「アプリ」を核として、携帯端末は当然として、テレビ、PCそして全てのDeviceと繋がり、ネットワークを完成する訳だ。

一方、後者はテレビ端末の中にプラットフォームを立ち上げ、「アプリ」をアグリゲートすると言う手法である。メーカー主導で構築するので、よりカジュアルでユーザーフレンドリーなもの構築可能、と言うのが現在のメーカーの主張である。

Samsungの場合、前者の採用OSはアンドロイド。拠って、戦略商品のギャラクシーもアンドロイド搭載である。後者の場合は自社で開発のBadaを搭載。後者モデルで果敢に市場に切り込みを図りつつも、戦略商品はアンドロイド搭載で、来たるべきGoogleの覇権に対応し、リスクヘッジを図って居るように思える。

日本メーカーでは、Panasonicが驚く程明確なコンセプトを提示したと思う。今回のCESまでは、「アクトビラ」の搭載程度でネット対応にお茶濁して居た、印象の強い同社であるが、今回は豹変し「アプリ」と「コネクト」にフォーカスする事を高らかに宣言した。

具体的には、「アプリ」と「コネクト」に拠る「ビエラコネクト」を今後の主力サービスにする事を強調し、そのサービスの受け皿と成るテレビ端末を「スマートビエラ」として紹介した。

開発関係者は、日本ならではのきめ細かいサービスを前面に訴求し、競合他社と勝負する、と自信満々である。

そして、「ビエラコネクト」のOSを、無償で競合他社に提供すると言うのも面白い。確かに、Panasonicが意図する様に、OSの標準化に成功すれば、コンテンツのネット公開に腰が引けてるテレビ局に対する、大きなプレッシャーに成る筈である。

テレビ局は、電波帯域さえ占有すれば何とか成ると言う、半世紀前の思想から、今以って脱却出来ずにいる。まるでリニアーモーターカーの時代に蒸気機関車を走らそうと思ってる様で、実に滑稽である。

何れにしても、2011年のテレビは、スマホ、タブレットPCそしてこれらDeviceにダウンロードされた、「アプリ」と、更に一般的と成り国民の生活の一部と成ったSocialに拠り変貌を強いられながらも、想像も出来なかった程、魅力的なサービスに生まれ変わる事であろう。

山口 巌
ファーイーストコンサルティングファーム 代表取締役