今週はソウルで開催された国際標準化会議に参加したが、そこで韓国における医療ビッグデータの活用について話しを聞いた。大変興味深かったのでここで紹介する。
韓国は「単一保険者体制」を取っている。わが国には企業や業界ごとに設立した健康保険組合、中小企業対象の協会けんぽ、自営者や高齢者が加入する国民健康保険などと、多くの保険者が存在する。これに対して、韓国では全国民が全国統一の一つの保険者の下で医療サービスを受けている。
もともと韓国には多くの健康保険組合があり、また非加入の国民もいたそうだが、1989年に国民皆保険を達成し、その 10年後に保険者統合を成し遂げ、今では単一保険者体制が定着しているという。
その結果、国民一人ひとりの医療データがすべて経年的に蓄積されるようになった。このコホート医療データを医療サービスの質の改善や国民の健康増進に活用しようと構築されたのが、National Health Insurance Data Sharing Service(NHISS)である。このデータベースはオープンデータとして提供されているので、政策立案にも民間のビジネス開発にも利用できる。
NHISSは次のように利用されようとしている。個々人の過去の医療記録が一望できる個人健康記録(Personal Health Record)をもとに将来の疾病可能性を警告するなど、個々人の健康管理に利用する。たとえば、喫煙や運動不足などのリスクファクターを減らすことで健康状態がどう改善されるか示せるようになれば、個々人の健康意識が高まるだろう。個々人の病歴・年齢・生活地域などを踏まえて、その人に最適な医療処置を選択できるようになる「カスタマイズされた治療(Customized Medicine)」も目指している。
そして何よりも医療政策がエビデンスに基づいて立案できるようになり、費用対効果も向上できる可能性が見えている。
わが国でも医療データをビッグデータとして活用しようと、政府は「健康・医療戦略推進本部」を設置して動き出している。しかし、歴史的偶然も幸いしてすでに単一保険者体制となっている韓国は医療ビッグデータの活用により積極的である。
情報通信政策フォーラム(ICPF)ではGAFAの医療ビッグデータの収集戦略や、日本企業における同分野の研究開発動向について、このところ連続してセミナーを開催している。次回は11月1日にスタートアップ企業の戦略について議論する。どうぞ、ご参加ください。