先ず、基本的な所で言うと、ICTは日本に残された数少ない成長分野であり、その健全な発展の為には、総務省に拠る妥当な電波帯域の割当てと、事業者に拠る、コンテンツのネット公開が急がれる。
そして、電波帯域の割当てと、コンテンツのネット公開は、車の両輪であり、どちらか一方が脱輪しても、車は走れ無く成ってしまう。その意味で、今回の最高裁判決が、ネット公開に影を落とすのではと、危惧している訳である。
今回の最高裁判決に接し、困惑するのは、何の為、誰の為、どちらの方向に向かいたいのか良く判らない点である。
そもそも、裁判所とは、法に従い、職人的に判決する所かも知れない。しかし、地裁なら兎も角、最高裁判決が地裁、高裁の判決を覆すとも成れば、我々がそれなりの意図を、あれこれ考えるのは自然であろう。
仄聞する所、今回の判決には、クラウドは含まないと言う事であるが、此れも2つの意味で疑問である。
先ず第一に、広大なネットと言う市場の中で、永野商店や類似の業者を狙い撃ちにして何の意味があるかと言う疑問である。
次に、ネット市場で、クラウドと非クラウドをどうやって分類するのかと言う技術的な疑問と、その意味である。個人的には、ネットとはクラウドそのものと理解している。
今回の、判決のインパクト考察の為、放送局、キャリヤー及びコンテンツアグリゲーター、そして、実際にテレビ受信機を製造する家電メーカーの、3レイヤーに分けて、現状を分析するのは有意義と考える。
先ず、放送局レイヤーであるが、期待されたNHKオンデイマンドが鳴かず飛ばずな事もあり、民放もやる気無の様である。フジテレビ、TBSそしてテレ朝の3社合弁のトレソーラも最近解散した筈である。
NHKは、昨年末Googleに番組販売する事決定した。今後は、Googleが、強力無比なトラフィックと、マネタイズエンジンを活用し、メインプライヤーの一角に加わるのではと期待している。
次いで、キャリアー及びコンテンツアグリゲーター、であるが、キャリアー代表としてNTTのフレッツテレビ及び光テレビの状況を説明し、コンテンツアグリゲーターとしては、アクトビラに就いて、同様説明する。
先ず、NTTのフレッツテレビであるが、同社のホームページ見る限り、番組はIP送信では無く、光波長多重技術を使ってのRF伝送の様である。此れは、早い話ケーブルテレビと同じ事であるから、放送局の域内免許の範囲で、再送信の同意を貰い、放送していると言う事であろう。
奇異に感じるのは、数年前、あれ程大騒ぎした、IPV6活用のNGNでは無い点である。NGN使った番組配信の未来が視界不良である。
次いで、光テレビであるが、此のサービスはNTTスクエア内にコンテンツサーバーを置き、IPV6経由配信している筈である。私の回りでは全く話題に成らない。契約している人、それ程、居ないのでは無いか。
此のサービスが巧く行かないと、今後フレッツを解約しての、無線通信切り替えが激増する筈である。フレッツ純増の鈍化から、一気に純減と言うストーリーはNTTに取って悪夢であろう。
アクトビラは、元々、PanasonicのTナビをベースに構築されたサービス、プラットフォームであり、株主構成は、Panasonic 30%,SONY 30%,他家電メーカー40%である。
従って、PanasonicとSONY が積極的にプロモーションする必要がある訳であるが、SONYは早々に見限り、GoogleTVを主戦場に決めてしまった。
一方、本家本元のPanasonicは、今月ラスベガスのCESで、Apps Connectを発表し、今後の進むべき方向を明確に示した。
此の状況では、アクトビラの将来は極めて厳しいのではないだろうか。
何処に、問題があったのであろうか。コーデックをMPEG-2,DRW Marlim-Jと言う日本仕様、ある意味ガラパゴスにしてしまい、独占を狙った結果、副作用としてコンテンツの、リエンコードの追加コストが問題と成り、コンテンツが思った様に集まらなかったのでは無いか。
最後に家電である。以前のエントリーでも説明したが、東芝、PanasonicのApps Connectには未来を感じている。
クラウド対応を可能とし、ソーシャル連携に拠り、全く新しいサービスを訴求する。今後、益々の台頭が予想される、スマホ、タブレットPC,テレビ受信機そして、他の様々なDeviceと連携し、ユーザーに拠り、カスタマイズされたネットワークの構築が可能と言うのが魅力的である。
此処までの分析を見る限り、幸い、今後の期待が出来る幾つかの話は出てるものの、テレビ番組のネット配信はとても望まれる段階までは来ていない様である。
就いては、今回の最高裁判決が、更なるブレーキに成らぬ事を祈るのみである。
コメント
家電メーカー側の 『雰囲気』 で言うと、TV局のコンテンツが絡む事業は片手間のレベルに
堕ちているように感じます。社運を賭けて取り組むものではなく、守りしか出来ない者を当てて、
他社に遅れないように最低限の投資を行う感じです。
もちろん、それが悪いわけではありません。そういう事業が大ヒットして稼ぎ頭になることも、
理論的には有り得ます。ただ、成功する方向に引っ張る要素は、メーカー内には皆無と
言ってよい感じがします。
今回の裁判を絡めて言うと、高裁レベルの判断が確定した場合、
「TV局さんも不本意でしょうが、お上もこう仰っていますし、この枠内で儲かる新規事業を
考えましょうよ、技術面は全面的に協力しますよ」
のようなスタンスになります。
最高裁の判断(というよりも、高裁で時間のムダにした)だと、
「今までどおり協力します。やりたいことがあったら言って下さい。前向きに善処します」
こんな感じです。
TV局が著作権に対する考え方を変えない限り、ネット配信は成功しないでしょう。
判例などで外部から合法的に変えることは、不可能になってしまいました。
まあ、別に困りませんが。