アメリカ、イギリス、フランスそしてドイツの4大国の合意が成立し、エジプトのムバラク大統領に対し、抗議運動を展開する民衆に対し、決して武力を行使せぬ様、申し入れが行われた。
http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-12317277
従って、我々が今観ているのは、80才を超え権力にしがみ付く、外堀の埋められたエジプト、ムバラク大統領の無残な姿である。ムバラク氏を前大統領と呼ぶ日も近い筈だ。
問題は、現政権が倒れた後の、権力の空白をどうやって埋めるかである。
昨日来、ネットでのエントリーの幾つかを読んだが、予想通り根本的な誤解があり、且つ、読者の多くはその誤解を疑わず受け入れている。
第一は、欧州でフランス革命が起こり、次いで、アメリカ大陸で南北戦争が起こり、愈々、中東で市民に拠る民主化運動が勃興したが如き誤解である。
フランス、アメリカと中東の決定的な違いは「市民」である。前者は既に神から独立し、個人として自立し、古く成り機能しなく成った政治体制を否定し、代って、「自由」と「平等」を保障する社会を新たに構築すべしとの確固たる理念があった。
一方、中東に暮らす市民は、法と生活の全てを支配するイスラム教の敬虔な信者である。従って、彼らの理念を強いて言えば、よりイスラムの教えに忠実な政治体制を構築すると言う事であろう。
第二は、長期に渡る強欲な独裁政権を、アメリカが自らの国益の為に支援し、欧州列強も此れを支持した。そして、今回の市民の反政府運動が此の悪の枢軸を打倒そうとしているとの見方である。
話としては、実に判り易いし面白いが本当にそうだろうか。
先ず以て、アメリカであれ、欧州の国々であれ、外交の基本は国益の維持拡大の筈である。従って、外交を担当する人間が此のレールから外れれば、明確な忠実義務違反として、罰せられるのでは無いか。外交とは本来そう言うものと思うが。
次いで、独立した個人としての市民が居らず、敬虔なイスラム教徒が市民として暮らすイスラムの国、で一体独裁以外に如何なる政治体制が可能なのかである。
最も可能性が高いのは、1979年イスラム革命を成功させ、その後30年以上に渡り、西側諸国の予想に反し、政権維持に成功しているイランモデルである。
後、残された可能性としては、余り想像したく無いが、無政府状態で、部族単位で抗争を繰り返す群雄割拠の状態である。そんなに荒唐無稽な話では無い。アフリカの多くの国々の実態は、今でもそんな状況で多くの血が流されている筈である。
従って、ムバラク大統領が去った後の、エジプトの選択肢としては、アメリカ、ヨーロッパの支援を取り付けた、新たな独裁政権の樹立かイスラム革命を経てのイラン化の2者択一しか、現実無いのでは無いか。そして、此の選択はエジプト国民が強制されて行うのでは無く、自ら自身の考えで行うべきである。
国内ネットの論調で、看過出来ないのは、ムバラク大統領がまるで悪徳商人の「越後屋」であり、アメリカが此れを背後で操る脂ぎった「悪代官」。そして、此の悪者たちを退治するのが、Twitter,Face Bookと言ったSocialと言う話、説明である。
まるで「水戸黄門」の筋書き其の物で、還暦過ぎた老人には判り易い勧善懲悪の話であるが、実際はまるで違う事、肝に銘ずべきである。
最後は、既に少し触れたが、Twitter,Face Bookと言ったSocialの過大評価である。無論、中東全域でアラビア語が使われており、効果的なツールである事は否定しない。
しかし、彼らの生活様式が、一日数回モスクに通い礼拝行う事を考えれば、モスクで口伝で情報が広がっていると想像するのが普通では無いか。
正月に初詣に神社に行き、彼岸に墓参りする程度の日本人には、少し想像力を必要とするのかも知れないが。
エジプトの動乱で大事な事は、今起こっている事を、歴史と地政学のマトリックスの中できちんと捕え、日本として今後どう対処すべきかのグランドデザインを構築する事である。
個人的には、イスラムの事はイスラムの人が決めれば良い話で、アメリカ含め、他国が干渉すべきでは無いと思う。
そして、新たな政府が誕生し、新たな建国の為の協力の要請があれば、協力すべきと思う。
大変残念な話であるが、菅政権や文化交流、ODAのばら撒き位しか実績の無い、日本の外務省に手腕を求めても、多くは期待出来ない様に思う。
従って、残された可能性は、こう言ったネット論壇で正しい世論形成を行い、国に働きかけて行く事位であろう。