渡辺喜美参議院議員(無所属)が5日、自らかつて率いた「みんなの党」を復活させることを明らかにした。すでに公式サイトもできており、旧年中から周到に準備していたことをうかがわせる。
アゴラ執筆陣で早くも関連記事を書いた人もおり、政界での注目を集めつつある。
みんなの党の復活、渡辺喜美党首は全く新しい人達とスタートすべきだ。(Urbanfolks:渡瀬裕哉氏)
みんな再旗揚げ:地方議会から国を動かす動きが続々?(アゴラ:早川忠孝氏)
まずは目の前の政治決戦、今春の統一地方選の首長選、議員選で候補者を擁立。その手応え次第で参院選への参戦も視野にいれているようだ。
筆者はかつて拙著でも明らかにしているが、基本的には無党派層ではあるものの、みんなの党が元気だった2010年ごろは支持していた(注・党員ではない)。そう言うこともあり、渡瀬さん、早川さんとは違う視点で論考を書いてみた。
みんなの党にかつて期待した経緯
新聞社の社員だった当時は政治と畑違いのスポーツ記者ではあったが、一有権者として、当時の自民党が小泉政権下の改革路線から古い体質に回帰していたことに嫌気がさしていた。
そうした中で、公務員制度改革担当大臣として抵抗勢力に潰された渡辺氏が自民党を飛び出し、小泉改革の「継承者」としての位置付けを明確化。日本の政党では珍しい、小さな政府路線を掲げるなど大胆なスタイルが、それまでの野党になく新鮮に感じていた。
2010年の参院選東京選挙区では、タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏を擁立。筆者は迷わず投票した。タリーズを愛飲していたこともあるが、それ以上に、日本を代表するベンチャー若手経営者の大物を担ぎ出してきたことへの驚きと本気度を粋に感じたことを記憶している。
そして、自民党が政権を奪還した12年衆院選では、私の住む東京1区は国内最多の9候補が乱立。この時はさすがに迷った。後述するように、みんなの党のある主要政策だけは支持できなかったこともあり、投票所の入口に来るまで投票先を決めかねたが、結局、負けるだろうとは予期しつつ、同党から出ていた元区議に一票を投じた。
決め手は、みんなの党はすぐには与党になれなくても、公明党のような形で少数でありながら将来、キャスティングボートを握り、第1党に刺激を与える存在になってほしいとの期待を込めたからだった。
しかし、その思いはむなしく、路線対立を繰り返して3年後に空中分解したのは周知の通りだ。最後の代表だった浅尾慶一郎氏は浪人中。松田氏や山田太郎氏のような上場企業経営経験者も政界を去り、都議会も7議席から分裂。最後まで残っていた3人の都議は都民ファーストの会に籍を移したが、やがてアゴラでもおなじみの2人が離党。さらに先ごろ袂を分かった。
そして「熊手問題」で代表の座を追われていた渡辺氏も2014年の衆院選で落選。16年参院選で維新の比例区で復活したが、案の定、松井代表らとそりが合わず、すぐに離党して、今回の再旗揚げに至る。
ブランドは定着も、今回期待できない理由
さて、2019年、新しい年になり、統一地方選まで秒読みになって来る段階での再結党は、どんなものか。サイトを見ると、ロゴやトーン&マナー、URLもほぼ往時を彷彿させる。
同党にかつて所属していた音喜多都議も言うように、東京を含む首都圏の都市部には、かつて第三極を支持した潜在的な支持層はいる(2010年参院選都内では民主、自民に次いでみんなは92万票。16年都知事選での小池票は291万)。
しかし現在の首都圏は、大阪での維新のような第三極として存在感を示せる党はなく、ポジショニング的にはぽっかり空いている。何より、中高年の投票率が高い選挙マーケットは、「昔の名前で…」の演歌歌手ではないが、往時の知名度・ブランドの訴求力はある。
見た目としては、昔、みんなの党を支持していた人の票を掘り起こす勝機がありそうな気もするが、サイトの動画を見て、「あぁやっぱり」と思い、今度ばかりは昔のように期待する気は持てなかった。
「増税の前にやるべきことがある」
メッセージ自体はかつてと同じ。懐かしさもあるが、実はこれが「支持できなかった主要政策」なのだ。リフレだ。消費税増税を嫌悪する路線は相変わらずのようだ。
もちろん選挙戦術的には「合理性」はあるので、元支持層には一定の訴求力はあろう。
しかし、他の政党が言わなかったような、正社員の解雇規制緩和をはじめとする労働市場改革を言う大胆さがあるだけに不満だ。財政再建をしないで、今後うなぎ上りの社会保障コストをどう賄うのか、かつて抱いた複雑な思いを強く感じた(筆者も増税は決して好きではないが、さも高度成長を再現して財政再建や社会保障を賄える的な昔の「上げ潮」言説はまやかしと思う)。
そういえば以前、ある経済の専門家から面白い話を聞いた。その人は党の草創期、勉強会に招かれて講演。小さな政府を掲げる意義や行政改革以外の売り物としての経済政策を提起したが、リフレ派を批判する彼は渡辺氏に「高橋洋一氏にだけは気をつけろ」と忠告したと言う。しかし、その後、渡辺氏が高橋氏をブレーンに招聘し、党首も党もリフレ路線に傾倒していったことは改めて言うまでもない。
ちなみに、その専門家の名は…アゴラの読者ならもうお気づきだろう。池田信夫だ。身びいきで決して言うわけではないが、もし高橋氏ではなく、池田をブレーンにしていれば……選挙で有権者受けしないかもしれないが(苦笑)、少なくとも経済政策では「正論」を吐く党として尖った存在となり、永田町の歴史で違ったストーリーを残せたかもしれない。
気になる軍資金調達と再結成の動向
そう言うわけで、今のところ、筆者は新生・みんなの党に対しては冷めた…いや生温かい眼差しを向けて観察しているに過ぎないが、最後に、政治家・政党の広報ブレーンを務めた経験から気になることを2点指摘しておきたい。
1点目は軍資金の問題だ。選挙には金がかかる。前身の党は解党時に政党交付金を憲政史上初めて返上。民間でいえば会社を清算した経緯があり、今度の党はブランドだけ引き継いだ“新会社”だ。新党はクラウドファンディング(CF)も資金調達の方法として検討しているそうだが、勝手な想像ながら、渡辺氏が昔の“よしみ”で(シャレではない)、CFをお家芸としている音喜多都議から助言されているかもしれない。
ただ、そうだとしてもCFの資金調達は簡単ではない。政界記録でも一千万程度。どこかにまだ打ち出の小づちならぬ、打ち出の熊手があるのかもしれないが、この辺りはベテラン政治家である渡辺氏の経済界とのコネクションがまだどこまで生きているかだろう。
23区の区議選と横浜、千葉、埼玉の政令市議選に1人ずつ、計30人程度を擁立、供託金程度は賄う「スモールスタート」であれば、数千万円でなんとかなりそうだ。
2点目はかつての所属議員たちの勢力と連携するのか競合するのか。音喜多都議は昨年秋から自分の政治勢力(あたらしい党)を、上田令子都議は自由を守る会をそれぞれ率いる。
区議選、市議選は自民、公明、共産が擁する組織や地縁が物を言う戦場だ。もし競合した場合、投票率も国政選や都知事選ほど望めない中、かつての仲間や無所属、維新などと、限られた無党派層のパイを奪い合う構図になる。上田都議の年明けのエントリーによれば、忘年会に渡辺氏が参加しており、これが合流とまでは行かなくても連携を示唆するものなのか。大半が新人を擁する音喜多都議の勢力も、蘇生した古巣とどう距離をとるのか。
いずれにせよ、当面はスタートアップ状態の運営となる新生みんなの党。党首の「賞味期限切れ」を感じさせないためには、渡瀬さんも指摘していたように、まずは顔ぶれを一新した新装開店ぶりを印象づけられるかが試金石ではないだろうか。(でも、ごめんなさい…今の党勢だとリフレ政策に目をつぶれません)