以前、私の事業で使っていたある建築資材で不良品が大量発生したことがあります。販売会社にクレームしたところ、アメリカの製造会社を通じてほとんど問答なしで全部、新品に入れ替えてくれたことがあります。使えない建材ですから交換は当たり前なのですが、業者は調べもせず、ほとんどやり取りもないまま大量の交換に応じてくれたことにやや違和感を感じたことがあります。
北米でおなじみのホームディポ。建築用品などここで物を揃えれば家が建てられるほど商品がそろっています。当然ながらその客層には建築関係のプロの人も多いのですが、なかなか購入した資材が意図したものではないことも多く、返品も半端ではありません。しかし、レシートさえ持っていれば店に人に「どこか不都合でもありましたか?」と聞かれ「サイズを間違えました」といえばOKと言ってあっさり返品に応じてくれます。なので買うことに躊躇なく、そして「ダメなら返品すればいい」という安心感があります。
本屋では立ち読みどころか、いすまで用意してくれるサービスが当たり前になっていますが、海外で売っている日本の書籍はそうはいきません。それは買取であり、版元に返品ができないからであります。そんな中、ある本屋ではアニメ本に力を入れていたのですが、見事にビニールに入っていて中身は全く見られません。本屋に言わせれば立ち読みで買ってくれないから、あるいは折り目がついて商品価値が下がるから、ということなのでしょう。結局この書店はあっさり閉店します。読めないならネットで買えばよいわけです。いや、ネットでも初めの数ページぐらいはチラ見をさせてくれます。
商売の難しさとは顧客と売り手の温度差にあるのでしょう。かつては商店はモノを売るという行為のみで利益を得ていました。しかし、今、ネットにコンビニ、スーパーとなってくればモノを買う理由の差は価格のみになってしまいます。
以前、街の電気屋はなぜ、潰れないのか、という話の中で電球を売るのではなく、電球をつけてあげるからだ、と申し上げました。冷蔵庫や洗濯機を買ってもネットで買えば宅配業者が段ボールごとポイと玄関口に置いていくだけです。それをどうやって設置するか、高齢者にならないと分からない不安ネタです。はたまたパソコン。せっかく買ったのに説明書がない、と大騒ぎするのもこれまた高齢者。
日本の物価はどんどん下がる、海外の物価はドンドン上がる、この違いは何か、と考えるとサービスの価格という発想はひとつありだと思います。
以前、北米のレストランのチップの話を振った時、あんなものは旧世代の名残だとか、給与の二重取りだとか、かなり厳しい意見があったのですが、それはレストランという業種のチップが目に付くからそう感じるだけなのでしょう。例えば自動車を修理してもらった時、その明細を見たことはありますか?北米で数千円程度の部品をつけるだけなのに工賃を3万円ぐらいとられることもあります。これに文句を言う人はあまりいません。
ビジネスをしていて商品を右から左に売るだけでウハウハ儲かる甘い時代はもうないといってよいでしょう。売るためにフォローアップ、売ってからのフォローアップをどれだけするか、これが全てと言ってもよいでしょう。冒頭の不良品や返品に何らストレスなく対応してくれるのは物品購入者のハードルを下げるという意味で重要です。
あるいは購入したものがきちんと機能するようフォローしてくれるサービスも必要です。それらは結果として売り上げ向上やサービス料の付加といった形でビジネスに上乗せされることが多いものです。
日本では往々にしてサービス無料という発想が多いと思います。しかし、サービスではなく、工賃なら結構な金額を請求されるのですが、それを嫌とは言いません。最近見かけるレストランのフードのデリバリー。よくよく考えれば昔の出前と同じなのですが、出前はなぜか蕎麦屋と寿司屋と中華料理店というイメージがありました。それを横に広げ、急速に普及しているのがフードデリバリーです。これもデリバリー料金がきちんと付加されます。でも客はそれを承知で使うのです。
ビジネス上手とは持てるノウハウや商品をどう光らせるか、そしてそれをどう喜んでもらえるのか、ここにすべてがあるのでしょう。確かにビジネスは難しくなってきました。でも最後、悩んだらこれだけを考えてみてください。「顧客目線」。顧客がその商品をどれだけ違和感なく使え、楽しめるか、これです。そうすると案外、解は出てくるものです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月4日の記事より転載させていただきました。