昨晩、ピエール瀧さんが、コカインの使用で逮捕されるという、衝撃的なニュースが飛び込んで参りましたが、大河ドラマにも出演していることもあり、出演作品はどうなる?ということが盛んに取り上げられています。
昨今の風潮では、出演者が不祥事をおこすと、その作品までお蔵入りしてしまうという風潮がありますが、薬物問題に限って言わせていただければ、これは回復や治療の観点から言っても、弊害しかないと思われ、どうかこの流れをやめていただきたいと願っています。
新井浩文さんの事件で、映画「台風家族」が公開延期となってしまったことと重ねて、一緒くたに語られておりますが、これは我々から見ると大きな違いがあります。
新井さんの事件では、被害者ありきの事件です。
ですからこれから先もし作品を上映するとすれば、被害者の方との示談の成立及び、作品上映のご承諾などが、最低限必要になるでしょう。
そして性暴力の被害者は多くの場合、重篤なトラウマを抱えているので、「新井さんを見るとトラウマが刺激されつらい…」という方もおられると思います。ですから、誰もが偶然に見てしまう可能性のある地上波で作品は流さない。映画は出演作とわかっていて観に行くわけですから、こちらは上記の和解等が成立していたなら公開する。ポスターやTVCMに加害者となった俳優を出さないなどの配慮が必要となると思います。
けれども薬物の自己使用の場合は「被害者なき犯罪」と言われており、最も傷つけているのは自分自身です。
逮捕されることで、十分社会的制裁は受けるわけですから、この上、懲罰的、見せしめ的に作品をお蔵入りにするのは、回復を目指す我々当事者家族のためにも、是非ともやめていただきたいと思います。
私たち依存症者はただでさえ、社会に身の置き所がありません。
また、その家族も同じ思いをしています。
その上「こんなに迷惑をかけやがって!」と、迷惑の度合いを、どんどん強められ、2次3次の懲罰を与えられると、ますます自暴自棄になっていってしまい、回復をつかむ勇気が阻害されていきます。そして孤独から抜け出せず、ますます依存症を悪化させてしまいます。
ピエール瀧さんの場合、これほど売れっ子となり、これほどコンプライアンスが厳しくなった現実があるのに、それでもコカインを自己使用していたということは、そうまでしなくては精神を保てないほどの重圧やストレスといった、「よっぽどのこと」があったはずです。もしくは、すでに長年使用していて、依存症になっていたかのどちらかだと思います。
それを「甘え」の一言でかたずけられたのでは、薬物問題は解決していきません。
薬物問題の当事者には「きっかけ」についての精神論よりも、たった今からはからどうするの?という問いかけが再発防止の観点からも大切になります。
そして「社会に多大なる迷惑をかけた」と責めることや、懲罰的辱めは、なんの抑止効果にもなっていないことは、こうして薬物事犯があとを絶たない現実を見ていただければ明らかです。
また依存症者自身の心理を言わせていただければ、依存症真っ最中ほど、自分自身を責めており、その責めが激しく止まらなくなればなるほど、回復をあきらめてしまいます。
ピエール瀧さんが、薬物乱用者か?依存症者か?まだわかりませんが、どうか作品をお蔵入りさせて、「薬物依存症者は、社会に多大なる迷惑をかける厄介者」という責めとスティグマを強めることをやめていただきたいと思います。
そして、「薬物問題は治療を受けることが、一番の再発防止。
治療から逃げることなく、向き合うべき」という方向性で、マスコミも報道していただけたらと思います。
ピエール瀧さんの関係者の皆さんへ情報提供です。
日本の薬物依存症の拠点病院のトップを勤めていらっしゃるのは、国立精神・神経医療研修センターという病院です。
そこで薬物研究部の責任者をなさっているのは松本俊彦先生という精神科医の先生です。どうかそこにコンタクトしていただき、ピエール瀧さんが、治療につながる勇気がもてるよう、導き、支えてあげて欲しいです。
田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト