中国版「猿の惑星」と禁じられた実験

長谷川 良

海外中国メディア「大紀元」日本語版(4月12日)は、「科学分野の中国最高学府である中国科学院昆明動物学研究所は最近、米ノースカロライナ大学など複数の研究チームとともに、ヒトの脳の発達に重要な役割を持つマイクロセファリン(MCPH)遺伝子の複製を導入したアカゲザル11頭を誕生させた」と報じた。

▲映画「猿の惑星」のポスター

▲映画「猿の惑星」のポスター

実験の結果、MCPH1遺伝子の複製を移植された猿は、ヒトの脳と同様に脳の発達速度が緩やかになり、MCPH1遺伝子を組み込まれた猿は野生の猿と比較すると、短期記憶能力が向上したという。中国科学院は、「ヒト起源およびヒト特異的脳疾患(アルツハイマー病など)を研究する上で重要な価値を持っている」と、実験の意義を強調している。

このニュースを読んで、当方は直ぐに映画「猿の惑星」を思い出した。中国共産党政権は猿に人間のMCPH1を埋めこみ、人間のように進化した大量の猿を生産し、「猿の軍隊」を創設する計画ではないか、と考えた。

名優チャールトン・ヘストンが主演を演じる映画「猿の惑星」(1968年公開)はオリジナルのピエール・プールのSF小説「猿の惑星」とは少し違う。4人の宇宙飛行士は人間より知性の発達した猿が人間を奴隷としている惑星に不時着する。その「猿の惑星」は実は人間が核戦争を起こし、荒廃した地球だったというストーリーだ。いずれにしても、登場する猿は人間並みか、それ以上の知性を有する存在として描かれている。

中国科学院の学者は多分、米国映画「猿の惑星」シリーズのファンだろう。中国共産党政権は将来の少子化を見越し、中国人民軍に代わって猿の軍隊を創設し、世界の紛争地に派遣するという野望に燃え、学者たちに人間の遺伝子を猿に移植するように奨励しているのではないか。

共産主義政権下では科学者はフリーハンドで自身が考えている計画を制限されることなく実験できる。遺伝子操作の赤ちゃんを誕生させるなど、欧米科学者たちにはできない実験を中国の科学者たちは意欲的に実施している。人間遺伝子を猿に組み入れる実験はその代表的な例だろう。それに対し、実験の信頼性ばかりか、倫理道徳の観点から中国科学院の猿の実験に対しては当然、批判の声が出ている。

中国科学院と連携したノースカロライナ大学のコンピューター科学の専門家マーティン・ステイナー氏は、「この研究は、米国では実施不可能だ。研究そのものの問題と、動物への処遇について疑問がある」と正直に語っている。同氏は、「科学実験をする際、私たちはそこから何を学びたいのか、そしてそれが社会の助けになるよう行動するが、この実験はそうではない」と実験の目的が別のところにあることを示唆している(大紀元)。

それに対し、中国科学院の今回の実験の発起人・宿兵氏は「遺伝子移植の猿をもっと多く造り出し、別のヒト特有の遺伝子『SRGAP2C』を移植した猿を繁殖させる」と述べ、人間の遺伝子を猿に移植する実験を拡大していく意向を明らかにしている。

例えば、再生医療分野でも厳しい倫理規定があり、一つ一つの安全性が確認されない限り、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を人体に移植できない。しかし、中国ではそのようなハードルがない、というか、無視されるケースは多い。

国際社会は中国の科学実験に対して厳しい監視の目を注ぐ必要性がある。共産主義思想の恐ろしさは人間を“単なる物質の塊”に過ぎないと考える点にある。法輪功メンバーから生きたまま臓器を移植するという考えられないことが中国では白昼堂々と実施されているのだ。あれもこれも、共産主義思想の世界観、人間観にある。繰り返すが、中国共産党政権は、科学・医療分野で欧米諸国を乗り越えて世界を支配したいという野心から、科学者が禁じられた実験を繰り返すことを許しているのだ。

当方はこのコラム欄で「人間の『魂』の重さは2・5グラム」(2019年4月2日参考)という記事を書いたが、その中で「21世紀の最大の科学的課題は魂の所在地を明らかにすることだ」と述べた。中国科学院は欧米科学者と共に、人間をして、人間としている「魂」の所在を発見するために努力すべきだ。「猿の軍隊」を創造する以上に、価値のある試みであることは間違いない。

ドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」の主人公、イワンが、「神がいなければ全てが許される」と呟く個所がある。中国科学院の今回の実験はまさにそのような思いを深める。誰も禁じられて実験を停止すべきだとはいわない。実験でどれだけのメリットが生まれ、役に立つかだけが問われるのだ。ひょっとしたら、中国共産党政権の社会だけではないかもしれない。ワイルドな資本主義社会でも程度の差こそあれそのような無謀な実験や試みが秘かに行われているのではないか。中国版「猿の惑星」を想起させる今回の実験はその意味で人類全てに対する警告と受け取るべきだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月17日の記事に一部加筆。

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