再エネ振興は市場原理に委ねるべき

日本政府が昨年の7月に策定した「第5次エネルギー基本計画」では、2030年に再生可能エネルギーの電源構成比率を2018年の17%から22~24%に引き上げる目標を掲げています。ただし7.8%は、既存電力会社が保有する水力発電等です。

再エネ比率は、菅直人政権の置き土産である2012年の固定価格買取制度(FIT)の導入等により、直近4年間は年間1%強のペースで順調に増加して来ました。その意味では、FITが再生可能エネルギーの普及に貢献したことは事実です。しかし、その反面大きな2つの副作用をもたらしました。以下ご説明いたします。

FITの水準は、特に導入当初、意図的に高く設定されていたこともあり、年2兆円ずつの国民負担が電気料金の中の再エネ賦課金という形で積み上がり(出典:経済産業省資料)、この5月からは1kWhあたり2.95円にまで増嵩しています。これが電気料金高止まりの要因の一つとなっています。

FITの適用を受けた設備導入量は、実に4,013万kWに昇り、その中でも太陽光発電が3,781万kWと94%を占めています。さらに太陽光のうち、住宅用は519万kWと14%足らずで、残りの86%強(3,262万kW)は、非住宅用、すなわち専門の事業主の保有する大規模太陽光発電所(便宜的にメガソーラーと呼ぶ)です。(経済産業省資料:2017年12月までの運転開始分累計

つまり、メガソーラーに追加利潤を与える(巷間メガソーラーバブルと言われました)ために、国民に将来にわたり多大な負担を強いていると言っても過言ではなく、これがFIT政策の一つ目の副作用です。

もう一つFITには、大きな欠点があります。それは、全国どこでも同一価格だということです。そうすると、メガソーラーは、九州・四国や山梨県北杜市といった地価が安くて日照条件の良いところに集中します。地価が安いところは需要地に遠くなる傾向がありますが、既存送電線が混雑しようが、山の斜面に貼り付けて、景観破壊をもたらそうが事業者は御構い無しです。まさに、部分最適が歪な電力システムをもたらすという全体最適を棄損する典型例と言えるでしょう。

こうした反省もあり、FITの価格水準は低減しており、さらにはFITに頼らない再エネ振興策を考える機運が高まっています。

一つ目は、ESG投資という世界潮流です。ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。この文脈で、「RE100」という国際イニシアチブが興隆しています。RE100とは、事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブで、世界で164社、日本で16社が加盟しています。また、RE100に加盟しないまでも、企業活動の多くを再エネで賄おうという企業が増えています。

確かに、大企業が自発的にやや高い再エネを買ってくれれば、国民負担にもなりませんし、新たな政策・規制もいりません。このように再生可能エネルギーを金融市場の後押しで企業自身の判断で促進させるというのは大変よくできた仕組みです。ただ、多少の留意も必要です。例えばこんな事例です。

「日本初再生可能エネルギー100%による 世田谷線の運行を電気記念日の3月25日に開始」。(東急電鉄等のプレスリリース

これを4月17日付の電気新聞は以下のように報じています。

東京急行電鉄、東北電力、東急パワーサプライ(東京都世田谷区、村井健二社長)は25日、再生可能エネルギー100%の電力で東急世田谷線の運行を同日から開始したと発表した。東北電力グループの水力発電と地熱発電の一部を活用し、東急パワーサプライを取次として世田谷線に電力供給する。東北電力と東急パワーサプライが再生可能エネ100%の電力を供給するのは初めて。両社は今後も需要家と個別に協議しながら、環境ニーズに応えていく考え。

まずこのような東急電鉄や東北電力が再生可能普及に自らコミットするというのは大変素晴らしいもので賞賛されるべきと申しておきます。その上で、留意点を申します。プレスリリースをよく読むと、再エネ電気の概要として

東北電力および同社グループ企業の東北自然エネルギー(株)が保有する一部の水力発電所および地熱発電所(いずれもFIT適用外)で発電されたCO2排出ゼロの再生可能エネルギー由来の電力。

と書かれています。つまり、これはもともとあった東北電力グループの再エネ資源をプレミアムを払う東急電鉄に優先的振り向けるというもので、新たに再エネ比率を引き上げる新規投資を行うものではないというように読めます。

いささか語弊があるかもしれませんが、これは全体のパイが一定のゼロサムで、高い料金を払う企業に電力会社が「綺麗な」電気を振り向ける、ということは一般の顧客の電気が「綺麗でなくなる」、しかも顧客はそれを知らされないし、「綺麗でない電気を享受する分」料金が下がるわけではないのです。

これはいささかトリッキーな話です。もちろん、東北電力や東急電鉄の名誉のために言えば、彼らは意図してやっているわけではなく、将来的には新規の電源開発をする善意の気持ちなのだと思います。

さて、話をRE100に戻します。100%再エネ達成に向けては2つのオプションがあります。

(1)自社施設内や他の施設で再生可能エネルギー電力を自ら発電する

(2)市場で発電事業者または仲介供給者から再生可能エネルギー電力を購入する(再生可能エネルギー電力の購入は、再生可能エネルギー発電所との電力購入契約(PPA)、電力事業者とのグリーン電力商品契約、グリーン電力証書の購入のいずれの方法でも可)

しかし、企業が独自で発電所を設置するのはまだまだ割高ですし、先ほどのような既存電力会社の所有物は別として、その日本にある再エネの大宗は、先ほどのFIT下のメガソーラーですので、その再エネ証書を買ってくるというのが、一番簡便ですし安くつきます。

ところが、メガソーラーは景観破壊や近隣住民とのトラブルなど何かと問題が多く環境負荷の高いものも少なくありません。このようなメガソーラーでRE100を達成して、好環境企業を謳うのにはいささか違和感があるのは私だけでしょうか。さらに言えば、既存のメガソーラーの環境価値を買って来ても、再エネ資源の純増にはならないというのは先ほどの事例と同じです。

ですのでSDG投資やRE100は、「純増」をもたらす「乱獲でない優良な」再エネ資源を選択的に選好するような、丼ではなく、きめの細かい制度設計が求められます。時代はデジタルエコノミーなのですから、そういった一工夫は十分に可能です。

さらに、「純増」をもたらす新たな動きをご紹介します。それは、第一に、高圧需要家の屋根に自家消費用の太陽光パネルを電力小売会社の負担で設置する動きです。これは、顧客確保で過当競争気味になっている中で、顧客のつなぎとめ(無償で設置する代わりに10年間はスイッチできない)策として流行りかけているものです。これは、ゼロサムでなく純増であり、国民負担を招くものではありません。

第二に、住宅の屋根に、第三者が太陽光パネルを所有するモデルです。顧客には割安な料金で電気を供給します。このような第三者保有モデルも近年サービス提供企業が増えています。こちらも、ゼロサムでなく純増であり、国民負担を招くものではありません。

デジタルエコノミー化の下では、こうした分散型電源(メガソーラーに比べれば環境負荷が低い)をITの力できめ細かく、割安で管理・評価することが可能になっています。

このように、技術革新によるRE100のきめの細かい運用や、純粋な市場原理によって、国民の負担なく太陽光は普及すると思います。

酒井 直樹

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