今回の日韓紛争の背景には、韓国人が日本に対してもっている屈折した被害者意識と、日本人が過去に朝鮮人を差別したという加害者意識がある。そういう差別の実態はもうほとんどないのに、マスコミや一部の知識人は罪悪感をあおり、韓国に同化する。たとえば浅井基文氏はこう書く。
私たちは、韓国に100%の理があり、日本に100%の非があること、日韓関係悪化の責任は100%安倍政権にあることを内外に明らかにしなければならないと思います。そして、今日の事態を作り出した「1965年日韓体制」を根本的に清算して、個人の尊厳・基本的人権の尊重を基調とする21世紀にふさわしい日韓関係の構築が求められていることを日韓両国民の共通認識に据える努力を行っていく必要があると確信します。
これは韓国人にもみられない極端な主張だ。外務省条約局にいた浅井氏は、条約を「根本的に清算」するということが何を意味するかわかっているだろう。それは日韓両国が1965年以前の状態に戻り、白紙から交渉し直すことだ。
こういう人々は、日韓基本条約は軍事政権が結んだ不平等条約だと思っているが、事実は逆である。韓国は1952年のサンフランシスコ条約に「戦勝国」として参加しようとして拒否され、日本とそれに準じる講和条約を結んで賠償を取ろうとしたため、交渉が難航したのだ。
このとき賠償と並んで争点になったのが、在日韓国人の処遇だった。朝鮮半島から日本に来た朝鮮人は、終戦まで日本国籍をもっていたが、1952年にすべて日本国籍を喪失して「外国人」になってしまった。これが「在日」問題の始まりである。
このとき日本に残った韓国人の国籍を「日本政府が一方的に剥奪した」という人がいるが、これも逆だ。日韓会談で韓国政府がすべての韓国人の国籍離脱を要求し、それに日本政府が応じたのだ。 韓国は戦勝国だと思っていたので、敗戦国日本の国籍を拒否した。
1965年の日韓基本条約と同時に結ばれた日韓地位協定では、在日2世までの韓国人に「協定永住資格」が与えられ、5年以内に申請すれば永住権を得られるようになった。選挙権がないとか公務員に採用されないといった制限はあったが、それは帰化して日本国籍を取ればよい。
ところが多くの韓国人が帰化を拒否した。これはもとは在日を「在外公民」と位置づける朝鮮総連の思想から始まった運動だったが、 帰化した韓国人は裏切り者として韓国コミュニティから排除されるようになった。
彼らは帰化しないまま、参政権を要求した。「税金を払っているのに、その使い道を決められないのはおかしい」というのだが、この論理は奇妙である。帰化して日本人になれば参政権は与えられるからだ。
こういう運動の結果、1991年に入管特例法で3世以降にも特別永住資格が与えられ、他の外国人とは違う無条件の永住権が法的に認められた。2018年の特別永住者は33万人で、そのほとんどは韓国人である。
浅井氏のいうように「1965年日韓体制を清算」したら日韓地位協定も失効するので、それにもとづく特別永住資格も失われる。在日韓国人は国交のない国の外国人という1965年以前の状態に戻るので、国外退去を求められても拒否できない。
韓国人の反日意識は、戦後の軍事政権が作り出したものである。戦時中の朝鮮人は、80万人が戦争に志願したことでも明らかなように、日本への帰属意識を強くもっていた。それは事大主義の伝統の中で、 日本を中心とする「新しい華夷秩序」に朝鮮を組み込むことだった。
その秩序が日本の敗戦で崩壊し、冷戦体制の中でアメリカを中心とする世界秩序に組み込まれたのが日韓条約体制である。 これを清算するということは、サンフランシスコ条約を否定するに等しい。GSOMIAを破棄して日米韓の安保体制から脱退しようとしている韓国にアメリカが強い警戒感を示すのは、このためだろう。