韓国代表のIAEA演説:「反日路線」が改めて明らかに

長谷川 良

ウィーンの本部で国際原子力機関(IAEA)第63回年次総会が開催中だが、初日16日午後(現地時間)、韓国の代表、文美玉科学技術通信第一次官が基調演説をした。

しかし、その演説テーマの優先順位(プライオリティ)が「北の非核化より日本批判」だったことから、韓国の文在寅政権の「反日・親北路線」が改めて明らかになった。

IAEAでスピーチをする文美玉第一次官(KBSニュースより:編集部)

韓国の文在寅大統領は青瓦台(大統領府)に入って以来、南北融和路線を標榜して親北傾斜、反日政策を行ってきたが、ウィーンの文美玉第一次官の演説内容はまさにそれを端的に実証していた。

具体的に言えば、文美玉第一次官の演説の最初のテーマが日本の福島第一原発から放出される処理水の問題に費やされていたことだ。北朝鮮の非核化については「その後」わずかに言及しただけに留まっていた。北の非核化は福島第一原発の処理水問題より重要ではない、といった判断が働いていたのだろう。IAEA年次総会でそのような演説をした韓国代表はこれまでいなかった。

(演説の英語訳の全文はIAEAのサイトで入手可)

毎年開催されるIAEA年次総会(加盟国171カ国)で韓国代表は日本や米国らと同様、北朝鮮の非核化を強く要求するのが通例だった。しかし、今回の文美玉第一次官の演説では“日本バッシング”がメインとなり、北朝鮮の非核化は申し訳程度に言及するだけで終わっている。これこそ、「反日、親北」路線をまっしぐらに走ってきた文在寅大統領の総決算といった感じがしたほどだ。ちなみに、演説の長さでは、福島第一原発の処理水問題は10段落、北の非核化は5段落で前者が後者の倍の量だった。

年次総会の基調演説では各代表の持ち時間は7分と制限されているから、全ての問題に言及できないが、文美玉第一次官の場合、福島第一原発の処理水への懸念表明を第一テーマとして扱い、「世界の海洋の安全性が懸念される」と警告を発したわけだ。

福島第一原発の処理水の問題はもちろん重要だ。日本側もその対応に苦慮している。トリチウムなどを含む処理水を水で薄めて海洋に流しても人体や環境の問題が生じていないことはこれまでの実例から明らかだが、文美玉第一次官は「世界の海洋の安全性」云々と述べ、危険性を煽ったわけだ。

その発言内容がシリアスなものならば、韓国の月城原発では過去、福島第一原発より数倍のトリチウムを含む処理水が既に海洋に流されたのだから、これこそ「世界の海洋の安全性」を脅かすスキャンダルだったというべきだが、実際は問題がないので海洋に流しただけだ。

それにしても、北朝鮮の非核化はどうしたのか。北の隣国・韓国が最も懸念すべきテーマだが、文美玉第一次官はアリバイ工作として北の非核化を扱っただけだ。好意的に理解すれば、日本の処理水問題を叩くことに没頭するあまり、北の非核化を忘れてしまっただけだろう。

基調演説では多くの加盟国代表は北朝鮮の核問題をイランの核問題と同様、言及し、警告を発することを忘れない。一方、肝心の韓国代表は日本叩きに没頭している、といった有様だ。韓国は日本との間の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄したが、文政権では北の非核化はもはや緊急課題ではないのかもしれない。

そこで文美玉第一次官に真意を質してみたいと思い、17日にIAEA本部でオープンされる科学フォーラム(Scientific Forum)の韓国ブースに出かけた。開会式典に文第一次官が参加すると聞いたからだ。

「科学フォーラム」の韓国ブースでの記念撮影(文美玉第一次官の隣がフェルータ事務局長代行、2019年9月17日、IAEA本部で)

文美玉第一次官とフェルータ事務局長代行らが姿を見せると、開会式典はスタート。急死した天野之弥事務局長の後継者最有力候補のフェルータ事務局長代行は気分良く挨拶をし、文美玉第一次官とも笑顔で会談した。実質10分余りのオープニングが終わり、記念撮影を済ますと、文美玉第一次官は車が待機している地下ガレージに速足で向かい姿を消した。文美玉第一次官と会見を願っていた当方は少しがっかりしたが、仕方がない。

いずれにしても、文美玉第一次官のIAEA年次総会での基調演説は、文在寅政権の反日、親北路線を実証するもので、韓国が日韓同盟から決別し、北に傾斜していったことを裏付ける歴史的文献の一つとなるだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月19日の記事に一部加筆。