ベネズエラ移民が急増しているコロンビアは8月5日、イヴァン・ドゥケ大統領がコロンビアで生まれたベネズエラ人の子供2万4000人を対象にコロンビアの国籍を付与することを発表した。
ドゥケ大統領は「今日、コロンビアの一人当たりの国民所得は8000ドル(88万円)で、移民の危機に取り組んでいるヨーロッパ諸国に比べそれは少なく、財政上の制限もあるが、我が国は友愛でもって結束していることを世界に示したい」とナリーニョ大統領官邸から表明して、コロンビアで生まれたベネズエラ人の両親の子供にコロンビアの国籍を付与することを決めたのであった。そして、140万人のベネズエラからの移民を受け入れているコロンビアへの国際協力を要請したのである。(参照:elpais.com)
2015年から始まったベネズエラ人の国外脱出は既に400万人を越えており、今年末には500万人に到達すると予測されている。何しろ、今も毎日3万5000人のベネズエラ人がコロンビアに移民しているというのである。
ベネズエラからコロンビアに入国するのに一番利用度の高いベネズエラのサン・アントニオとコロンビアのラ・パラダからククタに跨るシモン・ボリバル橋は嘗て行商人の往復が盛んな橋であったが、今ではベネズエラからの移民で溢れた橋に変身した。
昨年9月の時点でも、コロンビアが移民の流入から受けている経済的インパクトはGDPの0.5%に相当すると指摘されていた。ベネズエラからの移民への保健サービスや教育サービスを始め、彼らを受け入れる施設の建設などすべて人道的な精神でもってコロンビア政府はそれに取り組んでいるのである。
かつて、半世紀前のコロンビアの経済危機の時にはコロンビアからおよそ500万人が豊かな石油産出で潤っていたベネズエラに職を求めて移民したという歴史がある。今はその逆の現象が起きているのである。コロンビアからベネズエラに移住していたコロンビア人も母国に戻らねばならなくなっている。(参照:lapatilla.com)
このような歴史を経験して来たコロンビアでは出来るだけベネズエラからの移民に支援の手を差し伸べる姿勢を示して来た。勿論、移民して来たベネズエラ人と地元の住民とで揉めごとが起きている。しかし、コロンビア人の根底にはかつてコロンビアからの移民に職場を提供してくれたベネズエラ人を助けようとする精神がある。
それが今回のコロンビア政府による特例という具体的な決定となったのである。それによって国籍付与の対象になる子供は2015年8月18日以降にベネズエラの両親のもとコロンビアの地で生まれた子供とし、これから2年先までこの特例は有効とした。その為の必要な書類は規定内にコロンビアで生まれたという証明になるものと子供の両親のパスポート又は身分証明書及び特別在住許可書の提出となっている。(参照:elespectador.com)
コロンビア政府が今回この決定を下した背景には、ベネズエラのマドゥロ政権とは断交しており、コロンビアにベネズエラ大使館又は領事館が存在していない。その為、コロンビアで生まれても両親は出生届を出す出先機関がなく無国籍者という状態が続いているということなのである。
コロンビア政府はグアイドー暫定大統領を承認してはいるが、グアイドー政権には実務上の機関はまだ存在していない。よって、グアイドー暫定政府の大使はいても実務上の国籍付与といった手続きなどはできない状態だ。
また家族福祉協会によると、毎日5000人のベネズエラの子供がコロンビアで福祉サービスを受けているという。18万2000人のベネズエラの子供が学校教育を享受しているそうだ。しかし、それはコロンビアに移民して来た子供の半分にも満たない数だという。2018年末までに既に32万7000人の子供がコロンビアに移民していることをUNICEF(国際児童基金)が明らかにしている。(参照:dialogo-americas.com)
例えば、8歳の少女フィオレラは学校には行かずコロンビアの首都ボゴターの北に位置した通りの信号のあるコーナーでおもちゃをもって祖母リスベツが通過する車に金銭を乞っているのを傍観している。
別のコーナーでは彼女の母親と継父が彼らはベネズエラ人で仕事がないことを大きなカードに書いて祖母と同じく恵みの協力を仰いでいる。彼らはボゴターの郊外地区から週に3回市内の中心街に立ってお金を集めるのである。
フィオレラは学校に通っている年齢だ。しかし、彼女の家族はどのようにして教育へのアクセスをすればよいのか分からないそうだ。フィオレラのようなケースがまだまだ多くあるということなのである。だから移民して来た子供の半分がまだ学校教育を受けていないという状態にある。
フィオレラはベネズエラのマラカイに住んでいたそうだ。昨年10月にバッグ工場が閉鎖して母親が失業した。祖母は母親の収入に依存していた。スーパーの開店は午前11時だというのに買い物の役目をしていた祖母はスーパーの前で夜中の2時から列に並ばねばならなかったという。
祖母が買うことができたのは米、パスタ、トウモロコシ粉といった僅かの食品であった。長時間の列に並ぶのは空腹を我慢することを意味するものだ。しかし、次第にインフラが高騰して彼らの収入では食料は買えなくなっていた。そこで母親はコロンビアに移民するということに決めたのであった。マラカイから3日かかってボゴターの郊外に到着したそうだ。(参照:dialogo-americas.com)。またコロンビア政府は3万人の子供を対象に予防接種も実施しているそうだ。
その一方で、ベネズエラと国境を接するブラジルでも現在までに16万8000人のベネズエラからの移民を受け入れたそうだ。その凡そ半数は子供だという。そして今年末には17万5000人にまで増えることが予測されている。
15歳の少年ロネイリーズは兄弟二人を連れて昨夏ブラジルに移民することを決めた。失業してブラジルに移民した母親がいるロライマ州の州都ボア・ヴィスタまで行くためであった。母親が失業してからは路上の歩道で寝るようになったのも、また物乞いもするようになったのも初めてのことだという。それから数か月して母親に仕事が見つかり連邦政府の支援プログラムのお陰で今ではサンタ・クララ州に移ったそうだ。
UNICEFによると、ボア・ヴィスタで路上生活をしている子供は700人いるという。(参照:bbc.com)
ベネズエラの市民そして子供も好んでこのような悲惨な生活を望んだのではない。全て政治家の誤った政治の犠牲者である。しかも、ベネズエラの場合、マドゥロ大統領を始め彼を囲む閣僚や側近はこの段階に及んでも私腹を肥やしている。
特に、マドゥロ政権は麻薬の密売にも関係しており彼らが政権を放棄して権力を失えば犯罪者として裁かれるのを知っている。だから権力の維持に固執しているのだ。
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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家