矢沢永吉のライブに通うようになってから、もうすぐ20年になる。ずっと永ちゃんを追いかけてきた。いつか矢沢と自分を重ねるようになってきた。辛いことがあっても、心の中で「永ちゃん、永ちゃん」と連呼すると、たいていのことはなんとかなる。
その永ちゃんだが、先週末、一騒動あったようだ。肝いり企画の日比谷野音ライブが中止に。急遽、特別にそのライブに向けたリハの様子を配信しようとしたが、それに対して災害時にライフラインを使うなとクレームのメールが。それに対する想いをウェブにアップするが、いったん削除。その後、再掲載。さらに、配信は1週間遅れるという…。
コトの詳細はこの記事に詳しく載っている。
矢沢永吉、台風対応めぐるメールに激怒「言いたいこと言ってんじゃねーよ」(バズフィードジャパン)
わかりやすい「開かれた場のジレンマ」問題だ。矢沢永吉とファンにとって、日比谷野音ライブがどれだけ思い入れの強いものであるか、このクレームを入れてきた人は知らないだろう。
野音は、ソロになる前のバンド、キャロルが解散ライブを行った場所だ。そのライブは、セットがリアルに炎上する事故が起こったこともあり、伝説となっている。その場にソロで1年後、凱旋した矢沢のライブもまた、伝説であり。矢沢の快進撃を決定づけるライブだった。
今回、矢沢永吉の新譜を買うと、抽選券が手に入り。当選したファン2400名限定の特別ライブだった。しかし、台風により中止という苦渋の決断に至った。中止のお詫びに配信する映像も2400名限定のようだ、報道によると。このように、これは完全にクローズドな企画である。
ネット社会はツッコミ社会であり、電凸社会である。クローズドな世界の情報がオープンになり。このような災害時にはみんなが誰かの「不謹慎」を探している。
2400名にネット配信することが、どれだけインフラにダメージを与えるか、「不謹慎」かどうかは皆さんに判断を任せたいが、どう考えても、「迷惑」とはいえないだろう。ファンを対象としたものであるし。むしろ、台風で外出できなくて、しかも不安を抱える人にとっての、清涼剤となり得たのに。
札幌の実家近くで起きた熊騒動も、射殺に対するクレームは道外のものだったという。あいちトリエンナーレ2019の騒動もそうだろう。
永ちゃんはこれまでも、ファンのあり方について苦言を呈してきたし、ファンにも楽しんでもらうためにルールを守ることを求めてきた。しかし、おそらくファン以外だと思われる方から突然、クレームがきて。これだけ怒りをあらわにするのは異例である。
いつからこういう面倒臭い社会になったのだろう。
永ちゃんをもう一度、野音で見る日がくることを祈っている。いつかその日がくる日まで。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。