この週末は、「桜を見る会」と「沢尻エリカ」のどちらがテレビのワイドショーの枠を多くとるかが、大きな関心事だったという。時事通信の「思いやり予算4倍増要求」(河野大臣が週末の間に否定)報道をそこにぶつけたい、という意見もあったという。
私個人は、日頃から日本のテレビは扱わないニュースを追っている人間なので、「テレビのワイドショーは何に時間を使うべきか」は、苦手なテーマである。
もっとも、文字媒体で見る限り、少しは取り上げられたニュースが、取り上げられなくなっているように感じるのは、気になる。
中国当局に拘束されていた北大教授が解放された。
中国問題の専門家ではない私ですら、国際平和活動を扱う中国における会議に招待されたことはある。同業者として関心を持っていた。まずは無事な解放に安堵したい。
しかし、状況に関する情報が全く出てこないのは、歯がゆい。
中国当局への配慮もあるのだろう。関係者は、騒がないでほしい、と思っていることだろう。だがそれでいいのか。
もちろん、中国は、日本の約3倍の経済力を持ち、アメリカに匹敵し始めた軍事力を持つ超大国だ。ワイドショーを見ない私も、それを知らないわけではない。
しかし、だからといって、香港、チベット、新疆ウイグルといった問題をとにかく徹底的に封印し、満面の笑みで国賓来日の習主席を迎える、といった態度を世界中のニュースメディアに流すことが、日本外交の長期的な利益になるだろうか。
日本のテレビのワイドショーは、そういう話題は取り上げていないのかもしれないが、世界的には取り上げられている。
できれば、せめて「ロヒンギャ問題の解決に向けて日中で一緒にミャンマー政府に働きかけよう」といった提案でもして、その点をインドやバングラデシュでのニュースで取り上げられるようにもしてもらえないだろうか。
アムネスティを通じて、「林鄭月娥・香港特別行政区行政長官」宛のアピール文に署名をした。
だが私のような人間が署名をしているくらいでは、全く足りない。こういう国際的なリベラルの訴えは、日本では響いていない。
自民党の有志議員のグループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」が、習近平・国家主席の国賓来日に反対する決議を出し、岡田直樹官房副長官に決議文を手渡したという。青山繁晴・参院議員を代表幹事とするグループは、自民党の中でも保守派で知られる。だが他の論点に関する彼らの個々の政策的立場は、ここではどうでもいい。
岡田官房副長官が、決議文の内容を安倍晋三首相と菅義偉官房長官に伝えるとした上で、「自民党の反対論や国民の中にある賛成できないという気持ちを無くせるよう、官邸一体となって努力する」と語った、というのが重要だと思う。
今から国賓来日を中止するとなれば、相当な判断になる。簡単にはできないだろう。だがこうした意見を、国会議員やその他の人々が表明することは、当然ではないのか。決議文に書かれていることは、至極真っ当である。
中国主席の国賓来日に反対 自民有志「護る会」の決議全文(産経新聞)
日本のいわゆる「知識人」たちも、もう少し他国の人権問題などに目を向けてみたらどうだろうか。世界の人権問題のために、「リベラル」派も時には保守派と意見を一致させてみたりする度量を見せたらどうだろうか。
野党勢力も、「桜を見る会」が「沢尻エリカ」に負けることを心配する層だけではなく、ワイドショーを見てない国民からも応援してもらうことを、もう少しくらいは考えてみてもらえないだろうか。
「桜を見る会」は巨大な疑獄だ!と叫んだりするだけでなく、「タレントと桜を見て人気取りをする暇があったら、首相にも、国益をもっと真剣に考える時間を作ってほしい」とでも述べて、支持層を広げてみようとする野党党首はいないのだろうか。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、