予算案の偽装で財政危機の危機感が後退

中村 仁

財政膨張をいつまで続けられるか

またまた過去最大です。103兆円という巨額の来年度予算案が決まりました。主要国の中で最悪の財政状態をいつまで続けるつもりなのかと、多くの識者、メディアの大半が懸念しています。それなのに国民に危機感が高まらないのは、予算案に多くの偽装がなされ、危機が隠されているからです。

写真AC

史上最長、4選もあり得る安倍政権と言われるのですから、財政の実態を率直に示し、「国民に痛みをお願いしたい」と訴えるの筋です。やっていることはその逆です。「最強」の使い方が反対です。

「経済再生と財政健全化の両立」「消費者物価の2%上昇の実現でデフレ脱却」「国民総生産(GDP)600兆円を達成」「原発比率20-22%達成(2030年)」など、政権の主要目標はどれも現実的ではなくなりました。特に年末に決まった国家予算案は偽装の手口が見え透いています。

何度もやってきたことの繰り返し

偽装1。安倍首相、麻生蔵相がいう「経済再生と財政健全化の両立(25年に基礎的財政収支の黒字化)」は口先だけの偽装でしょう。目標達成年度を5年も先のばしている。経済再生に重点を置いても、歳出ばかり膨張し財政再建は遠のく。財政刺激の効果は一過性で、過去20年、国債残高は膨張を続けています。「財政健全化」は唱えているだけのようです。

官邸サイトより

偽装2。高めに経済成長率を設定しており、税収も増えるから財政赤字を減らせるという理屈です。政府は実質成長率を1・4%(19年度は0・9%)としているのに対し、民間予想は0・5%と低い。税収が増えるというカラクリを作るために、意図的に成長率を高く見積もっている。

偽装3。公共事業関係費は6兆8500億円で、10年ぶりの大きな規模です。国土強靭化、治山治水のためだそうです。建設現場は人手不足が続き、18年度は3・2兆円という大きな繰り越し(未消化)が生じました。では20年度予算で、なぜ削減しなかったのか。公共事業には成長率の押し上げ効果があるため、減らしたら税収見込みも減らさざるを得ないので、そうはさせない。

補正予算で国債増発の抜け道

偽装4。国債発行額は32兆6000千億円で、10年連続で減っています。日銀によるゼロ金利政策で国債の利子負担が減り、国債発行額も減らせてきた。いつまでゼロやマイナス金利が続くのか、何も言わない。さらに来年度についてみると、年度内の補正予算で経済対策(事業規26兆円)を組み、国費は7兆円が投入され、国債が必要(国債増発)になるに違いない。

日銀HPより

偽装5。これまでも補正予算がしばしば組まれ、財源をかなり国債に頼ってきました。当初予算で国債発行額を圧縮して「よくやっただろう」と思わせる。年度途中の補正予算を繰り返し、そのたびに国債発行が増える。補正後(決算ベース)で比べてみないと、本当のことは分からない。

偽装6。おかしな財政理論を使って、財政膨張を正当化する勢力が強いのです。財政拡張派が好むMMT(現代貨幣理論)はその好例です。「インフレになったら歳出抑制に乗り出せばよい」ようなことを唱えています。財政は政治経済学であり、経済理論は通用しません。歳出抑制に転換しようとしても、政治がそれを許さない。

MMTを引きながら財政支出の拡大を求めてきた自民党の西田昌司参議院議員(西田氏YouTubeチャンネルより)

一度、緩めた財政節度はまずもとに戻せないのです。「景気が悪いからといって国債発行して歳出を増やす」「景気が好転して税収が増えても、ま回復が不十分だといって、国債償還に回さない」。その繰り返しです。積り積もって、国の借金は1000兆円です。必要なのは政治経済学の理論です。

企業なら決算を粉飾をしたり、偽装工作をしたりすれば、経営者は背任に問われ、追放されるしょう。それに比べ、国家の場合は予算案が国会を通ってしまえば、だれも責任を問われない。予算案は偽装されていますから、国民も「どうにかなるのだろう」と、財政危機に無頓着なのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。