「呼吸苦」気管切開前のALS患者への先輩患者からのアドバイス

『呼吸苦』

これは体験した人にしかわからない苦しみです。何しろ長距離を走った後の「ハーハー、ゼーゼー」が延々と続くのです。どれだけ息を吸っても全く楽にならない、次第に息を吸う行為そのものがしんどくなって来ます。『出口の見えない生き地獄』、それが呼吸苦です。私も気管切開をして人工呼吸器をつける半年ほど前から、呼吸苦の症状が出てきました。

具体的に2つの場面を紹介します。

①ベッドの横になれない

私はフラットなベッドに仰向けで寝ると呼吸苦を感じるようになりました。よってベッドに移ったら、すぐさまリクライニングを60度くらいに上げて何とか寝ていました。すると次はリクライニングを上げても、真上を向いていると呼吸苦が発生しました。首を左右に向ければ呼吸苦は緩和されますが、何しろリクライニングを相当上げているので、首を左右に向ける動作を繰り返すと枕がずれて首がずり落ちてしまいました。結果、ベッドで寝ることを諦め、トイレとシャワー浴以外24時間車椅子の生活がスタートしました。

車椅子ならリクライニングは調整出来るし、首を左右に向けてもヘッドレストが固定されているので大丈夫でした。本当に苦肉の策でした。なので、気管切開の手術前の私の病室にはベッドがないという、何とも奇妙な光景がありました。当時のことを考えると、今こうしてベッドに何時間も横になりiPadを出来ていることは奇跡的なことです。

②食事をとると呼吸苦

気管切開直前の話です。当時も私の食事は今と同じ胃ろう(胃に穴を開けてチューブで直接胃に栄養を入れる)でしたが、栄養を入れると呼吸苦が発生しました。今の私の脈拍は70~80回/1分ですが、当時の食後は120~150/1分ほど激しく脈を打っていました。当時便秘も重なっていたので、食事の度に息苦しさとお腹とお尻の閉塞感は生きた心地がしませんでした。

栄養の吸収に酸素が使われるのが原因だと考えられますが、口から味わってもいない『生きるためだけの食事』でこれはたまりません。しかも前述したように、これは全て車椅子上での出来事です。しんどいから横になってもしんどさからは逃れられないのです。

何故こんな苦労話を書いたかというと、気管切開のタイミングの参考にして欲しいからです。私は①で述べたように日常的に呼吸苦を感じる状況でたまたま熱が出て、軽い熱中症の疑いで入院しました。そして入院3日目に呼吸苦ではなくて、正真正銘の呼吸困難に陥ります。病院から妻には「命の危険がある」と連絡があったそうです。もし自宅で呼吸困難になっていたら、私はこの世にいなかったかもしれません。

呼吸苦を感じ始めた方には突如として呼吸困難はやって来ます。そのタイミングまでにどうしたいのか決断しておいてください。

無責任な発言ですが『私はみんな生きて欲しい。呼吸苦から解放された世界を知って欲しい』。


この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ元社長)のブログ「ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ」2020年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。