海外投資家は日本国債に投資をするのか?

井上 真義

海外投資家は日本国債に積極的に投資するのでしょうか?日本国債の95%は日本国内で消化されているから問題ない、とよく言われますが、これは裏を返せば、日本国債に海外投資家が魅力を感じていないということです。

貯蓄率は年々低下し、国民の金融資産も横ばいで推移する一方で、日本政府の債務残高は増え続けています。いつか日本国内に国債を買い支える資金がなくなるのは自明のことであり、そうなれば海外投資家に日本国債を投資してもらうしかありません。海外投資家が積極的に日本国債に投資してもらえるのであれば、国内の余剰資金が尽きても何ら問題ありませんが、そのような状況になり得るのでしょうか。


最近の日本の長期金利は1%台前半で推移しています。一方、アメリカの長期金利は、現在は3%前後で推移し、時期にもよりますが、おおよそ数%程度は金利差が生じている状況です。

例えば、この状況下でアメリカの投資家が日本国債を積極的に投資することはありません。自国の国債と比べて、金利が低いうえに為替リスクがあるからです。金利を少なくとも数%程度は上げなければなりませんが、たとえ金利が同じになったとしても、日本の財政状況が厳しく、為替リスクも負うという状況であれば、そのデメリットを上回る金利差がさらに必要となります。アメリカ以外の海外投資家も同様の理由から、積極的な投資をするためには、現在の日本の金利水準より数%以上は高いものを求めるでしょう。

では、日本国債の金利が3%、4%になった場合に、どのような状況が日本で生まれるのかを考えてみましょう。

2009年12月末現在、銀行等、生損保等で日本国債を400兆円以上、保有しています。“金利の上昇=国債価格の下落”であることから、仮に日本国債の金利が数%上昇すれば、金融機関が保有する国債価格は下落し、膨大な損失を生むことが想像できます。

先日の日経新聞の記事で、長期金利が1%上昇した場合の3メガ銀行(三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFG)の含み損は、2011年3月末時点の3メガ銀行の国債保有残高を基に計算をすると約2兆円になる、という報道がありました。地方銀行は長期金利が1%上昇すると、約4兆円の損失とも言われていますし、2011年3月末現在で146.5兆円の国債を保有するゆうちょ銀行の損失額を考えるのであれば、長期金利が数%上昇すれば、国内の銀行の損失は数十兆円規模に達する可能性があるということになります。

また、「長期金利が数%上がる=国債価格が数%下がる」ということではなく、国債の償還(満期)までの期間が長い国債であればあるほど、その価格の下落率は高くなるという理解も必要です。生命保険会社は会社の性格上、長期で資産を運用する必要性があることから、一般的に長期国債を保有する傾向が極めて強くなっており、多額の超長期国債(償還までの期間が10年超の国債)を保有しています。よって、同じ長期金利1%の上昇でも国債価格の下落幅はより大きくなるため、生命保険会社の損失もやはり膨大なものとなり、国内の銀行と同程度の損失を生む可能性があります。

こう考えれば、長期金利が数%上がれば、銀行、生命保険の資産は著しく劣化し、金融危機が到来する可能性が非常に高くなります。そのような金融危機が到来した日本の国債に、たとえ魅力ある金利になっていたとしても海外投資家は投資するでしょうか?

仮に金融危機が深刻なものとはならず、長期金利は4%という状況が当たり前の世界が到来したとしましょう。国債の利払費は、長期金利が1%台前半で推移する現在で約10兆円です。長期金利が4%になれば、その利払費はいずれ約40兆円になるということです。今の税収は約40兆円です。税収がすべて利払いに消えることになります。このような国の国債を誰が買うでしょうか。

こう考えれば、海外投資家が日本国債を積極的に投資する状況は決して生まれることはないでしょう。日本国内に国債を購入できる余剰資金がなくなった時点で、日本政府が発行する国債を買い支える勢力がいなくなるため、国債価格は下落を始め、それが金融機関の膨大な損失を生み、日本は金融危機、財政破綻の道に突入していくということです。

日本に残された時間はあと何年あるのでしょうか。今、私たちに出来ることは何なのでしょうか。